県内経済界の話題をお伝えする「Qビズ」です。今回は、沖縄の気候や文化に目を付けた、ある県外老舗企業の挑戦です。
比嘉記者「おばー、きょうのお供え物は、ふーちゃんぷるーと、内地で有名なくず餅だよ~。でも実は、この沖縄の線香と、くるま麩、老舗和菓子店の看板商品にはおもしろいつながりがあるって、知ってた?」
創業1805年、大衆文化が花開いた、江戸は、亀戸に誕生した船橋屋のくず餅。くず粉を使う関西のそれとは違い、小麦粉を長期発酵させてつくられる、和菓子の中で唯一の発酵食品です。その製造工程は、およそ450日間かけて発酵させ、消費期限はたったの2日!まさに、パッと咲いてパッと散る、江戸気質あふれる船橋屋のくず餅は、200年以上にわたって人々に愛されてきました。
その、船橋屋8代目の姿が、なんと沖縄南城市にありました。
船橋屋渡辺雅司8代目当主「すごく風が通っていますでしょ気持ちいいんです、海も綺麗だし。これなんです。ここでくずもちの原料になる、小麦のでんぷん質を約450日かけて発酵させているんです。乳白色になっているんですが、もう少し熱くなるとブクブク発酵するところがみられると思うんですが、きょうは少し静かですね」
比嘉記者「船橋屋のくずもちの原料は…?」
船橋屋渡辺雅司8代目当主「はい、ここ沖縄で造らせていただいている」
船橋屋は2013年に現地法人「Mh沖縄」を設立。3年前から沖縄で工場を本格始動し、くず餅の肝となる発酵の工程を南城市で行っています。
現地法人Mh沖縄永吉英代表取締役「だいたい沖縄は本土からくる商品は多いですが、逆に沖縄で造ってそれを利用してくれるのは素晴らしいことだと思います」
それにしても、どうして老舗和菓子店が沖縄に目を付けたのでしょうか?
船橋屋渡辺雅司8代目当主「くずもちというのはでんぷんからできていて、小麦粉を水で洗った後にタンパク質であるお麩をとって残った部分をでんぷん質としてくずもちに使っている。なのでお麩屋さんに行けばいい原料が入るだろうと考えた。7年前に麩久寿にお邪魔して、原料をわけていただきたいと交渉した」
渡辺社長が突撃したのは、沖縄の伝統食材の製造メーカーでした!
麩久寿長嶺工場長「『本当かな?』と。でんぷんを食品にすることにまずは驚きました」
老舗和菓子メーカーのオファーに、工場長が驚いたワケとは!?
江戸創業の船橋屋がラブコールを送った、くるま麩メーカーの「麩久寿」製造工程では、小麦粉をグルテンとでんぷんに分離し、取り出したグルテンをくるま麩に使います。残ったでんぷんはというと、実は、沖縄の伝統行事に欠かせない、「平御香」に変身したり、のりとして活用されていたんです。
良質なでんぷんを求めて日本中を調べ上げた結果、沖縄の食文化と結びついたというわけですが、沖縄でのメリットはほかにもありました。
船橋屋渡辺雅司8代目当主「沖縄の方が平均気温が高いですから早く発酵するんじゃないかということも考えた。うちの場合は気候ありき、自然ありきなので最高に環境がいい。少し塩風が入っているとたんぱく質が発酵しやすい。(でんぷんの)モノがいいので絶対に良いものが作れるという確信はあった」
その確信通り、沖縄は、材料の供給だけでなく、でんぷんの発酵にも適していたのです。
さらに…!
船橋屋渡辺雅司8代目当主「でんぷんとるにはお麩が市場に出てもらわないといけないので、沖縄伝統のくるま麩はもともと大好きなのでその新たな食べ方の提案をできたらいいなということでお菓子にしてみた。そういう展開を今後もっと深めていく」
くるま麩の消費を支えようと、くるま麩を使ったお土産品を開発。
麩久寿長嶺工場長「今までだと、「麩と言えばチャンプルー、以上!」それ以上何もなかったがお菓子で攻めていくとなるとまたとても楽しみです」
また、最近では伝統製法のくず餅の中に「くず餅乳酸菌」が発見され、健康食品として注目を浴びています。
船橋屋渡辺雅司8代目当主「せっかくですから循環させたいひとつの小麦粉からお麩ができてくずもちができて全部消費できたら最高だろうと思っている。社会貢献できたら」
ここからは取材にあたった比嘉記者です。美味しそうでしたね。
比嘉記者「はい、もう特に関東では超有名店、本店でもくず餅を求めて行列ができる人気ぶりなんですが、驚くべきはそれだけじゃないんです。なんと、この創業214年の船橋屋は、2015年の新卒採用の際に5人の募集枠に1万5000を超える応募があったことでも話題を呼んだんです」
くず餅だけじゃなく、会社自体の人気もすごいんですね。
比嘉記者「はい、そこには「まず自分たちが幸せになり、お客さんや関わる人を幸せに」という経営理念があり、勤続年数に関係なく社員自身が自主的に発案していくつものプロジェクトを動かしているそうです。くず餅の伝統製法と同じく、会社を支える人を大事にする社風が人気の秘訣なのかもしれません。沖縄に進出する県外企業が増えていますが、県内企業にとって、こうした老舗企業から得るヒントは多くありそうですね」
ここまで比嘉記者でした。