やよいさん「この沖縄で、この基地の街で、これまで我慢して来たでしょう。土地は勝手に取り上げられて、家を焼かれて、妻は目の前で強姦されて、夫は殺される」
舞台「島口説」。主人公は、コザにある居酒屋の女店主スミ子。物語は、彼女が本土からやって来た観光客に自らの人生を語るシーンから始まります。
沖縄戦で息子を、そして戦後の絶望感から夫を亡くすなど、苦難を強いられた、沖縄の女性の姿、島が歩んできた辛く苦しい歴史を表現しています。
この舞台はもともと去年亡くなった名優・北島角子さんの代名詞と言われる舞台でした。1979年に始まって以来、学校公演なども行われましたが、100回公演を機に、1986年に幕を閉じていました。
北島さんの思いを受け継ぎ、32年のときを経て、島口説を演じることになったのは泉&やよいの2人。この舞台は2人にとってもなじみのある作品です。
やよいさん「中学校のときの学校公演で拝見したんですけど、戦争の話をしている、すごく激しい演者さんだなという(イメージ)」
泉さん「(チラシを配ったりしていると)学校公演でやったあの島口説?北島角子さんのあの島口説?って結構みなさんおっしゃるんですよ。学生時代、中学時代、高校時代に見たのがずっと今でも残っているすごい芝居だなと。すごくプレッシャーを感じております」
なぜ今になって島口説を再演することにしたのか。そこには厳しい沖縄の現状が関係していました。
やよいさん「79年に上演された当時と、今と、何も沖縄の現状が変わっていない。事件・事故。未だに理不尽なことが起きている。繰り返し上演していくべきではないか」
島口説を書いたのは、脚本家の謝名元慶福さんです。
謝名元さん「戦後沖縄から現代につながるものを、この島口説は伝えようということで書いたものです。沖縄の戦後とはこういうことだったんだな。そして、あのときと今はどう変わったんだろうか、本当に変わってないということが自然とわかってもらえるんじゃないかと」
そして迎えた本番。公演開始1時間前の楽屋には、緊張した面持ちの2人がいました。
泉さん「角子さんの島口説、今回私たち2人でやることになりました。まだまだ未熟なんですけれども」
やよいさん「北島先生がいらっしゃるところから、どうか見守ってください」
公演が始まると、会場は2人の織り成す世界に包まれました。
公演「またあちら、色の色白いさー、大和から?観光?えっ?地元。えっ?こんな色白いのに?」
そして物語のクライマックス。主人公のスミ子が子どものころを回想するシーン。兄の仇をとろうと、家を飛び出そうとする父を母が必死に止めるシーンです。
公演「主まで死んだら、スミ子と私はどうするねえ。この子の焼香は、葬式は誰がやれというのねえ。女だけ残すつもり?このお墓のご先祖の御願は、供養は、主の仕事でしょう。この骨壷の中も、厨司甕の中も、そして、殺されたこの子も、みんな主の血のつながったものよ。どうせ、このカンポーでは、勝ち目はないさあ、死ぬなら家族一緒に死のうよう、主、わあ命、昔から主かいあじきてえーるむん(私の命は昔からあなたに預けている)」
舞台は無事、幕を下ろしました。
観客女性「まだ若くて戦争とかあんまりわからないんですけど。自分たちの土地を守るために命がけで戦ってるのがすごく感動しました。
女性3人組「(戦争で)親を亡くしているので、ひとごとではないような。沖縄の現状ですよね。北島さんで1人でやるのとまた違うかもしれないですけど。伝わったと思います」
泉さん「楽しかったです。そして安堵感」
やよいさん「本当にお客さん実際に入ったら楽しくてしょうがなかったです。このお芝居を通して、「あれは何のことかね」、「あれはこれのことだったのか」、「あれのことだったのか」って、きっかけに、沖縄のことを、過去、未来、知るきっかけになっていただけたらなあって思います」
時代は変わっても、沖縄の現状は依然として厳しいままです。さらに残念ながら戦争経験者は少しずつ年老い、伝え手は減っていきます。
しかし受け継いだ者が次の世代に伝え、引き継いでいく。そうしてつながった思いが、この島の明るい未来を作っていくのではないのでしょうか。
公演 泉&やよいさん「朝栄にいさんの分までずっと生きてやるさあ。艦砲の喰え残さあこそ生きて戦争の証にならんとねえ」
舞台を主催したACO沖縄は来年も泉&やよいの2人で島口説を行うことを決めています。