きのうに引き続き復帰企画第2弾。返還軍用地の土壌汚染問題から、沖縄の本土復帰を見つめます。沖縄が負担しているものとは何なのか、憲法の視点からも考えます。
今はコンクリートが敷き詰められた駐車場。しかし、ダイオキシン汚染が発覚するまでは、子どもたちが駆け回るサッカー場でした。
各地で発覚する返還軍用地の土壌汚染。沖縄防衛局によると、1972年の本土復帰以降、県内では350回に分けてアメリカ軍用地が返還されましたが、土壌調査が実施されたのはわずか19件。ほとんどの土地が汚染を調べられないまま返されていたことが明らかになりました。
沖縄大学名誉教授・桜井国俊さん「調べられた事案がわずか19事案というのが、今の沖縄の置かれている状況を、もろに示しているなと思う」
首都大学東京法学部・木村草太教授「条約に基づいて返還しているわけで、第一次的な責任は日本政府にあると思います」
今も全国のアメリカ軍専用施設のおよそ70パーセントが集中する沖縄。この島が負担しているものとは、何なのか。土の中から見つめます。
首都大学東京の木村草太教授は、軍用地が汚染されたまま返されるのは憲法にある「財産権」に関わることだと指摘します。
木村草太教授「日本国憲法には、29条で財産権の保障の規定がありまして、まず財産権は原則奪ってはいけないと。また29条3項では、私有財産を公共のために使うためには、正当な補償をしなくてはならないというルールがあります。国の側は、29条3項に基づいて、適切に原状回復に努めるべきであるということは、憲法の観点から当然と言えることだと思います」
しかしQABが調べたところ、少なくとも県内20カ所の返還軍用地や使用中のアメリカ軍施設で土壌汚染が発覚していました。そしてその背景には、復帰後も長く法制度の不備が続いていたことがわかりました。
1960年に締結された日米地位協定では、アメリカ軍に原状回復の義務を免除していて、その役割は日本政府が果たすことになっています。ところがその後も、返還軍用地の廃棄物や有害物質を調べる土壌調査を義務付ける法律はありませんでした。
本土復帰から5年後、1977年の国会で日米安保条約を巡るこんなやり取りがありました。
峯山昭範参議院議員「憲法で保障された国民の権利と条約と、どちらが優先するんですか」
真田秀夫内閣法制局長官「憲法の枠の中で条約が結ばれるわけですから、それは憲法の方が優先するのは当然でございます。」
しかし、この後も、真田内閣法制局長官はこう述べていました。
真田秀夫内閣法制局長官「ただ、国民がその条約を結ぶことによって被る負担と、条約を結ぶことによる国益、これははかりにかけて、そして国会がご判断になるわけなんで、憲法で保障している財産権なり、いろんな国民の権利が拘束を受ける、制約を受ける」
さらに真田氏は、こうも続けました。
真田秀夫内閣法制局長官「安保条約を実施するために、ある程度の国民の基本的人権の制約もやむを得ない。こういう関係だろうと思います」
こうした考え方の下、復帰後も沖縄には、広大なアメリカ軍基地が置かれたのです。
しかも返還軍用地については原状回復、その過程にある土壌調査を義務付ける法律は1995年まで無く、国と地主が交わす土地の賃貸借契約書だけが、地主が政府と交渉する切り札でした。
木村草太教授「国会できちんと議論するとか、法律の条文を憲法に照らして判断するというプロセスを迂回できてしまうということになりかねないという点で、私は契約という形に落とし込んだところにかなり問題があるんじゃないかと考えています」
なぜこのような状態が放置されたのか、韓国のアメリカ軍基地の例に詳しい沖縄大学名誉教授の桜井国俊教授はこう指摘します。
桜井国俊さん「韓国の場合は、米軍基地は全土に展開していることがあって(土壌汚染問題は)全国民的な関心事になっている。それが日本の場合は、沖縄に封じ込められていると。そういう歴史までさかのぼって、地位協定はちゃんと返された時、汚染者が責任をとって負担する、浄化の責任をとる方向に変えていかなければならない」
そして木村教授も基地が集中していることが要因の一つであるという点で一致しています。
木村草太教授「一部地域の問題であって、国会全体で動こうという機運が起きにくい。返還についてのちゃんとしたルールを作ろうという動きも国会の中では起きにくい。したがって不十分な法状態が放置される状態が続くという、こういう構造があるのではと思います」
1995年、跡地利用とセットで土壌調査の実施が法律に盛り込まれました。しかし、それでも調査が回避される条件が残りました。
沖縄防衛局コメント『所有者などが自ら土地を使用する目的で返還の申請を行った場合には、返還実施計画を定めず、土壌の汚染の状況について調査を行わないことがあります』
この先、どれだけの土地で、どんな汚染が見つかるのか。土地の返還という沖縄にとって喜ばしい出来事も、手放しでは喜べない、汚染という新たな負担がのしかかっています。