きのう行われた全日本トライアスロン宮古島大会。この大会はスイム3キロ、バイク157キロ、そしてラン42.195キロ合わせて202.195キロ、制限時間13時間半という、まさに体力の限界に挑む大会です。今回はこの大会に強い思いを抱いて出場したある女性を取材しました。
大会前日、スタート地点となる海で花を持って歩く1人の女性がいました。
徳村香代子さん「なんか文二郎さんはスイム得意だったから、ラスト300メートルで…って聞いてなんか…たまらないですよね」「文二郎さん、完走宜しくお願いします」
この大会3度目の挑戦となる、徳村香代子さん。徳村さんは、18年前の第14回大会に初参加してから2年連続で完走。その挑戦を支えてくれたのが、トライアスロンを一から教えてくれた恩師の吉田文二郎さん。しかし、その吉田さんが18回大会、スイムの競技中にこの海で亡くなりました。
徳村さん「(トライアスロンを)続けることが文二郎さんに対する敬意であり、生きた証を体現する、伝えていくことなんじゃないかとだんだん思い始めて」
子育てなどで競技を離れていた徳村さんでしたが、練習を積み直し、17年ぶりに宮古島トライアスロンへの挑戦を決めました。
徳村さん「ゴールを文二郎さんに見せる、もうその思いだけですね。文二郎さんをいつまでも忘れていないよという気持ちを伝える完走・ゴールにしたいです」
強い意気込みを見せていた徳村さんでしたが大会当日、その表情が冴えません。実は、吉田さんが亡くなった海に恐怖心を抱いていました。
徳村さん「急に怖くなりました。スイム得意だった方が亡くなるというのはショッキングでしたし」
午前7時、1548人の選手が一斉にスタート。徳村さんも意を決して、海へと飛び込みます
3キロのスイム競技、続々と選手たちが浜へと上がってくる中、突然、大粒の雨が降り出します
徳村さん「この大振りの雨は不吉な雨ではなくて、私(の恐怖心)を洗い流してくれる、お清めの雨と思って」
恐怖を克服し、ほぼ理想通りのタイムでスイムを突破した徳村さん。バイク、157キロの道のりへと走り出しました。島全域を走る宮古島トライアスロン。沿道からは苦しさも忘れ笑顔になる応援もあります。
一方、徳村さん。前へ前へと軽快に進んでいるかに見えましたが、予想以上に苦戦を強いられ、遅れ始めます。
制限時間内にゴールするために、オーバーペースでレースを展開していました
徳村さん「ちょっと…甘かったかな」
その時、徳村さんが取り出したのは、お守りとして持っていた1枚の写真。それは、初めてこの大会に出場した時、励まし続けてくれた吉田さんの写真でした。
徳村さん「出るからには絶対ゴールしないと、私生きているんだよというのをちゃんと見せないと文二郎さん悲しむだろうし」「最後までとにかく諦めないでやるから見守っていくださいと思っていました。諦めない気持ちを見せようと思っていました」
気持ちを振り絞り、前へと進む徳村さん。しかし制限時間は迫ってきます
この頃、ゴールとなる陸上競技場では、選手らが続々と感動のゴールを迎えていました。刻一刻と制限時間が迫り、残り10分。その時でした。
恩師への思いを胸に、ゴールへとたどり着いた徳村さん。最後は車いすに倒れこむほど、体力の限界まで走り切ったゴールでした。
徳村さん「本当にダメだと思っていたので、とても嬉しいです。最高の気分でした。文二郎さんが亡くなっても、私は頑張ってきちっと育っているよって。だから文二郎さんの教えは無駄ではなかったと言いたいです」
やはり吉田さんへの思いの強さがゴールへとつながったんではないかと思います。この思いはきっと天国の吉田さんにも届いたと思います。