3年前、小学5年生の男の子が体育の授業中に頭を強打し、のちに保険のきかない脳脊髄液減少症と診断されました。学校内で起きた事故に対する行政の支援策の現状について考えます。
男子生徒「後頭部をうったんですよ。一瞬真っ白なって。」
3年前の事故の様子を語るのは、当時、西原町内の小学校に通っていた現在14歳の少年です。体育の授業中に複数の児童と接触し転倒した際、頭を強く打ちました。日に日に頭痛が激しくなり、この事故から半年後には歩くこともできない状態になりました。
男子生徒「朝起きたらとても頭痛くて、もう起きれないってなって。夜もずっと汗かいて眠れもしなかったですね。」
当時は、大好きな野球など様々なスポーツに励む活発な少年でしたが、頭痛により学校を休むなど、生活は大きく変わってしまってしまいました。
男子生徒「ずる休みしてるんじゃないかとか(周りが)思っているんじゃないかとか、そういうのは少しありましたね。」
そんな息子に何もすることもできず、ただ見守るだけだったという母親。その胸にはいつも強い葛藤がありました。
男子生徒の母親「表面的に見えない分元気に見えるけど、本人がつらいっていってるし。さするとか、それくらいしかできなかった。」
県内で治療を続けた少年。しかしなかなか回復の兆しは見られませんでした。
そんな中出会ったのが、熱海病院脳神経外科の篠永正道医師。篠永先生の診断は「脳脊髄液減少症」でした。この診断結果で、事態はおおきく変わります。
篠永正道医師「脳脊髄液減少症というのは、スポーツで転倒したとか、そういうことで起こることが多いです」
脳脊髄液減少症。これは、身体に強い衝撃を受けることにより、脳内の髄液が漏れだして、頭痛やめまいなどを引き起こす病気です。
篠永正道医師「受傷した直後はまだそれほど髄液が減っていないことがあるんですね。1か月とか半年とか、中には一年後に症状が強く出てくることもありますので、ですから、この外傷が原因で髄液が漏れて髄液が少なくなったと考えられるのが妥当だと思いますね。」
少年は、これまで7回熱海病院に通い、様々な治療の甲斐もあって、現在は歩けるようになるまで回復しました。今後も、額の痛みが取れるまでは通い続ける予定ですが、ここで新たな問題が生じているのです。
「脳脊髄液減少症」という病気は保険適用外のため、これまでに静岡までの渡航費を含めると、およそ250万円という大きな費用がかかりました。経済的な負担は深刻なものがあります。しかし、今回が子どもの事例としては県内で初めてで、西原町では支援制度がなかなか成立しません。
当初学校側は、学校管理下において発生した事故により、脳脊髄液減少症を発症したとの報告書を作成したものの、去年9月の町議会で、教育長はこのように述べています。
小橋川明教育長「これは問診を通してみてみると、体育の時間に事故が起きたという事実関係を、おそらく保護者の皆さんからそういう風に言われて、このことによって起きたであろうという一つの推定ではないか。」
体育の授業以外に原因が思い当たらない家族にとっては、つらい指摘です。この件について、教育長は次のように述べています。
小橋川明教育長「私が医者の診断書の正当性を疑問視する、とんでもない。これ(診断書)だけで判断するのは、十分ではありませんということを言いたいわけですよね。」
すすまない町とのやり取り。そんな中、先月、少年の父親は支援者とともに県議会文教厚生委員会で救済を訴えました。
男子生徒の父親「息子を回復させたいという思いがありますので、今後も継続して治療を続けていきたいと。保護者としては、条例、もしくは制度を作って救済していただきたい」
このあと県議会は、西原町の教育委員会に対して、質疑応答を行いました。
狩俣信子議員「これ体育の授業で(頭を)打ったから出てきた結果じゃないですか。医者の診断というのが第一ではないかと思うのですが。」
小橋川明教育長「これが本当にこの事故で発症したのかどうなのか、そこらへんが今課題になっています。この原因を究明するために、いま調査中だということであります。」
整骨院の先生「負けないようにとめてとめて。はい力抜こう。楽に楽に。」
休学中の少年は今、整骨院に通い、リハビリに励んでいます。きのう西原町の新たな条例が提案されたものの、全額補償ではなく、また、病気に対する理解もまだ得られてはいません。
今回のような事故が学校内で発生する可能性は、決して低くはありません。実際に支援する条例を作るのははもちろん、今後周囲が事故の可能性や病気を理解し、どう支えていくかが大きな問題です。
男子生徒「一番は野球したいですけど、まず学校に行けるようになりたいですね。やっぱり早く学校に復帰して(両親を)安心させたいなっていうのはありますね。」
西原町がきのう提案した「治療費を一部助成する」議案は、明日の最終本会議で可決される見通しです。今後、学校で同じことが起きた時にどうするか、どう救っていくかが町に求められます。