交通手段が限られていて、沖縄の離島の中でも「最も遠い島」と言われる渡名喜島。そこには、島の人に愛されるちょっと変わった美容室が存在しました。
那覇から北西におよそ60キロのところある三日月形の島、渡名喜島。島に暮らす人は403人。沖縄で最も人口の少ない島です。ここ渡名喜島は、昔、戸が無い島「戸無島」と称されていました。防風対策のため路面より低く掘り下げて建てられた渡名喜島独特の家屋の前には、ヒンプンが風よけの役目もしていて、まさに門や扉の無い住宅が並んでいます。
そして、今でもこの島には戸に鍵をかける習慣がほとんどありません
福田さん「島生活で学ぶところはおおきいですよ。内地にない言葉でてーげとかゆいまーるって本当に素敵だと思います。」
その島にひとつしかないもの。島の安全を守る駐在所。警察官の渡嘉敷さんはみんなの人気者です。
渡嘉敷さん「ここはね、村人みんなが子どもの名前を覚えているんですよ。プライバシーが無いようにみえるけど、村はこうやって、人を心配してきているんですよね。だから戸の無い島渡名喜は伝統なんですよね。(私が勤めている)3年間被害届はゼロです。」
安全第一ですが、信号もひとつ。その理由は、島の子どもたちが他の土地に出たとき信号の役割がわかるようにという勉強のためのものです。そして美容室がひとつ。7年前にこの島に増えたものです。
古民家にかけられた看板の奥を覗けば、どこか懐かしくて居心地の良い空間が広がっていました。交通手段は1日1便のフェリーのみで日帰りはできない島。そこに美容師の福田さんは茨城県から毎月訪れ、10日間だけ美容室を開きます。その理由はと聞かれても福田さんもはっきりしないようです。
福田さん「これが普通の日常なんで特に理由はないんです。おばあたちが待っててくれるんで、ずっと楽しみにしていてくれるんで来れる気がします。
おばあ「地元のおばあたちがとっても好きにしているさやさしいから。」
福田さんは経営者として休む暇なく働いていた都会の生活で体も心も疲れ果てていた頃を思い出しながら言いました。
福田さん「島の生活をしてリハビリなっています。」
その言葉には色んな意味が込められています。島全体が家族。
福田さん「みんなで面倒を見ている感じ、親だけでなく島の人みんなで気にかけているので。」
島の安全パトロール担当の比嘉えいきさんは、海では子どもたちの安全を見守り、夜遅くまで自転車で島を回ります。島の夜は幻想的な明かりに包まれ、子どもたちのことを思う優しい大人たちの気持ちとともにゆっくりと更けていきます。
そして、朝は子どもたちの元気によって1日の力をもらいます。島の清掃活動を行う朝起き会は、90年以上も続く伝統です。戸の無い島、渡名喜島には、住む人に安心を与える昔から変わらない風景と豊かな人の心が残っているのでしょう。
福田さん「島のひとたちって余裕があるんですよね。自分が多く持っていたら人に分けてあげようと思うし、人が困ってたら手伝ってあげようという気持ちを島で勉強しました。島の人たちはこの島のことを本当に誇りに思っているみたいですね。」
福田さんは、また来月もこの渡名喜島を訪れます。