「重粒子線」。ちょっと耳慣れない言葉ですが、放射線の一種で、最先端のがん治療に用いられているんです。全国でもまだ数えるほどしかない施設が、沖縄に生まれようとしています。どんな施設なのか、取材してきました。
博多駅から九州新幹線で15分。佐賀県・鳥栖駅の目の前に建つのが九州国際重粒子線がん治療センター、通称、サガ・ハイマットです。
重粒子線治療とは、放射線治療の一種で、がんを切らずに治す、最先端医療です。
塩山善之副センター長「何を当てているかといいますと、炭素のイオンなんですね。いわゆる体の中の構成成分でもある炭素、そのイオン化したものをがん照射するわけですけれども」
施設のおよそ半分を占めているのが、シンクロトロンと呼ばれる、直径20メートルの巨大な加速器。ここで炭素イオンを光の速さの70%まで加速させ、治療室で待つ患者のがん細胞に照射します。治療に痛みはなく、照射時間もわずか数分です。
草柳記者「こちらはがん治療専用の施設です。しかしここに入院設備はありません。なぜならみなさん通院で治療を受けられるからなんです」
柴田和利さん「治療自体は1分か2分、全くいつあってるかわからないくらい、ぜんぜん治療されてるというのがわからないくらいの感じなんですよ。痛いとかかゆいとか全くない」
重粒子線治療といえども、もちろん万能ではありません。胃がんや大腸がんなど不規則に動く臓器のがんや血液のがんなどは治療できません。現在、佐賀では主に前立腺がんの治療が行われています。
塩山善之副センター長「がん細胞を殺す力が通常のX線とかガンマ線に比べて2倍から3倍強いといわれてるんですね。従来の放射線が効きにくかったタイプのがん種、そういったものに対してもより高い治療効果が期待できると」
現在稼働中の重粒子線治療施設は全国に4か所。治療待ちの患者さんも多く、施設の早期整備が待たれています。そこで手を挙げたのが沖縄県です。
玉城信光・医師会副会長「沖縄ががんに対する治療の最先端を歩めるチャンスが、研究施設としてもですね出来るんじゃないかと思っていますね」
計画では、来年春に返還される西普天間住宅地区に施設を建設する予定で、合わせて琉球大学医学部と附属病院も移転し、国際医療拠点として整備されることになっています。
謝花喜一郎県企画部長「西普天間住宅地区をですね、どのような形で跡地利用やるかと考えた時に、これまでの商業施設を中心とした土地利用だけではなかなかパイの奪い合いになるということで、やはりその地域にふさわしい機能ということを考えたところであります」
一方で、課題もあります。現状では保険が適用されず、治療するには300万円以上の自己負担が発生します。誰もが等しく受けられる治療ではないのです。そこで、県では、わずかな負担で治療を受けられる保険制度の構築を検討しています。
玉城信光・医師会副会長「携帯電話の使用料ですね、それから月500円の引き落としをやる。それを中心にした基金でですね、この重粒子線治療をする300万のお金が保証できるという保険会社の試算で出ましたんで、ぜひともそれを進めていきたいなと思ってですね。」
また、採算ベースに乗せるためには、年間400人程度の治療を行う必要がありますが、高額な医療費を支払う患者がどれだけいるのか、未知数です。
玉城信光・医師会副会長「300万円て高額ですから、100名くらいしかいないだろうということですけど、おそらくこの県民共済的な保険制度ができると300名くらいになる。沖縄にあるからには、アジアに向けた重粒子線の治療センターとして、アジアの方々を受け入れて治して差し上げられたら非常にいいなと思ってますね。」
謝花喜一郎県企画部長「多くのがん患者の大きな光になると思いますし、それから沖縄県はアジアに近いわけですから、そのアジアの国々と、多くの医療連携、研修等を行うことによって、まさしく沖縄がアジアにおける国際的な医療の拠点となることを期待しています」
南の島の医療拠点をどう構築するのか、重粒子線治療施設の完成目標は5年後の2019年度です。