本番を目前に控えた稽古。舞台に立つのは演劇集団「創造」のメンバーです。今回は沖縄戦をテーマにした作品「でいご村から」を上演、「創造」にとっては5年ぶりの公演です。
1961年に結成された「創造」伝統芸能である沖縄芝居とは一線を画しながらも「沖縄にこだわり」「沖縄を描く」演劇活動を続け、半世紀以上の歴史を刻んできました。演出を担当する幸喜良秀(こうきりょうしゅう)さん。これまで数多くの舞台の演出を手掛けてきた「創造」結成からのメンバーの一人です。
今回の「でいご村から」では、ほとんどのセリフがウチナーグチ。若手も多い中、出演者にはそれぞれの役の喜怒哀楽をウチナーグチで表現することが課せられました。
演劇集団「創造」代表上江洲朝男さん「最初は凄く笑われて。何度も何度も直されてその日はできるんですけど、2日、3日経つと元に戻ってしまうので非常に苦労しました。」
これまで現代演劇を中心に上演してきた「創造」。今回の公演はふるさとの言葉を見つめ直し、ウチナーグチによる表現の可能性を探る、初の試みです。
演出家幸喜良秀さん「私たちはもっともっと沖縄にこだわってウチナーの言葉をも自分たちのものにできるようにしたいと。言葉を失ってしまったんです。私たちの世代は。あっという間に失ってしまうんですが、回復するには大変時間がかかる。まだ私たちは回復してるんじゃない。回復しようとあがいている。この芝居も」
4月20日初演
物語はやんばるにある架空の村、「でいご村」が舞台。戦争前夜から終戦、戦後と時代の移り変わりの中で翻弄される人々の姿を描いていきます。物語の主人公、サヨは首里の師範学校に合格した喜一とデイゴの木の下で将来を約束し合います。しかし、サヨは喜一が学徒兵として戦争へ駆り出されることが唯一の気がかりで複雑な思いで別れます。
主人公・サヨ役小嶺和佳子さん「人を愛するという気持ちというのは、昔も戦時中も今もきっと変わらないと思うので、愛情とかっていうのを感じとってもらいたいですね」
やがて戦争が終わり、喜一は戦死したとの知らせが。サヨと喜一の父親、喜助は互いにとって最愛の人を失いながらも励まし合って生きていこうと誓います。
(サヨのセリフウチナーグチで)訳「一日早く喜一のところ(あの世に)行きたいです」
(喜助のセリフウチナーグチで)訳「何てことを言うんだサヨ。生きていれば必ずいいことがある生きていこうななあサヨ」
戦争の傷は時が過ぎてもサヨと喜助を苦しめます。物語の終盤、アメリカ兵に暴行を受け抵抗したものの、瀕死の傷を負ったサヨは、最後の力を振り絞って喜一に向かって語ります。
(サヨのセリフウチナーグチで)訳「喜一と幸せになりたかったよ」
喜一を思いながら息絶えるサヨ。戦争によって結ばれることのなかった2人をせめてあの世で一緒にさせようと喜助をはじめ「でいご村」の人々は葬式を「後生のニービチ」(あの世の結婚式)としてサヨを送り出します。戦争の苦しみ、悲しみ。そして平和への願い。舞台のもう一つの主人公は村の人々の生きざまを見続けてきたデイゴの木だと幸喜さんは言います。
演出家幸喜良秀さん「(デイゴの)赤い花は沖縄の流した血であり、情熱であり、いろんな意味がある。見えてる木の中にある物語を作りあげていくっていうんですかね。」
「沖縄の言葉」と「沖縄戦の記憶」を舞台を通して次代につなげていきたい。「創造」が53年目に新たに作り出す「現代の沖縄芝居」。その挑戦と地道な舞台活動はこれからも続いていきます。