Q+リポートです。農業の活性化を目指す伊江島では、9年前、大規模な国営の地下ダム建設が始まりました。この関連事業として、今、農林水産省の予算でなぜか、アメリカ軍に関連する工事が行われています。どうしてアメリカ軍がかかわっているのか取材しました。
地上十数メートルから伸びる巨大なドリル。掘り進める先は、最も深いところで地下34mにも達します。ここは、伊江島の「地下ダム」建設現場です。2004年に始まったこの工事では、地中深くを流れる雨水を、人口の壁でせき止め、農業用水として利用する計画です。農林水産省の予算、およそ250億円の大規模なプロジェクトです。
島袋元村長「花、タバコ、畜産、農業がなっていくうち、何が農業の基本かと言えば、水なんですよ。」
島袋秀幸村長「地下ダムが出来れば、今後の農業振興に大いに寄与する、と。」
一方で、いま、もうひとつの工事が進んでいます。看板を見ると、地下ダムに関連する何らかの工事だということは分かりますが、ショベルカーにトラクターと、一見、普通の工事現場のようにも見えます。
真謝地区のおばあちゃん「反対はしたんですけどね、もう仕方がないさ。」
真謝、帽子をかぶった男性「(あそこには何が出来るという説明がありましたか?)外人がくるわけ。(外人というと?)アメリカ人が来るわけ。」
「工事中の場所には、アメリカ軍がやって来る」といいます。伊江村の島袋村長に、なんの工事か尋ねました。
島袋村長「海兵隊の伊江島分遣隊の施設がありますから、そこをおっしゃる所に移設すると。」
伊江島は、面積のおよそ3分の1がアメリカ軍への提供地です。島の西側にはオスプレイなどが飛来する演習場。北側には海兵隊の施設があります。通信施設と兵舎を兼ねたこの施設を、なぜか地下ダム工事をめぐり、移転することになったというのです。
島袋村長「移設は米軍からの要望です。この伊江島分遣隊の移設をしなければ、現状の計画での地下ダムの推進に、米軍として、賛成できない。同意できないと。」
地下ダムの事業主、農林水産省の窓口となっている沖縄総合事務局に質問したところ、書面で回答がありました。
「米軍から、現状の米軍施設の移設が用地使用の条件とされました」
島の面積の大半を占めるアメリカ軍への提供地。例え地下であろうが、そこにダムを作るならば「補償」として、施設を移設させること。その費用は、およそ15億円。すべて「原因」を作った日本側の負担とされ、農林水産省の予算から捻出されます。
名嘉實さん「米軍の了承を経て、計画がスタートしたわけです。工事を初めて、途中で中断させているわけですよ。だからやり方が汚いと。途中までさせておいて、後で条件を付ける。」
伊江村で農業を営む名嘉實さんです。村議会の議員としても働く名嘉さんは、この工事に疑問を抱き、去年3月の村議会で、当時の村長に、経緯の説明を求めました。移設の発端は、意外な理由によるものでした。
大城村長<平成24年第1回伊江村議会定例会・会議録より再現>
「(地下ダム工事開始から1年後の2005年)米軍は、地下ダムで『何かの水の汚染があった時には、ダムの真上に施設があるから問題だ』と言い始めた。私は、施設から垂れ流しにするんですかと、そこまでも追及して、相手(アメリカ軍)のことを伺った次第です。しかしアメリカ軍は、仮に村民が汚染したときにも、我々が原因だと言われる可能性がある。ここに分遣隊を置くことは出来ないと。」
突然、アメリカ軍が言い始めた地下ダムの水の「汚染」。伊江島と同じく、アメリカ軍の通信施設があった恩納村では、17年前、猛毒のPCBポリ塩化ビフェニールを含む汚染物が跡地から見つかりました。
ドラム缶694本、104トンにのぼるPCBを含む汚泥です。PCBは毒性が強く発がん性があると指摘されていて県内には焼却施設がなく処分が難しい物質です。名嘉さんは、半世紀以上前に作られた伊江島の通信施設でも、同じような汚染があるのではないかと心配しています。
名嘉實さん「同じように、伊江島にもPCBがあるのか、と。いうことを聞いたんですよ、村長に。だからアメリカは汚染の心配をしているのか、ということを。(村長によると米軍は)「いや、そういうことではない」ということを言っていた。言うんですが、実際はわかりません。」
なぜ、アメリカ軍は「水の汚染」を引き合いに出してきたのか。なぜ、工事が始まってから移設を突き付けてきたのか。伊江島の人たちは、何も分からないまま、2008年、日米合同委員会の協議を経て、移設が決定。来年末には、現在のおよそ1.7倍の面積に、真新しい運動場や兵舎を備えた施設が完成する予定です。
名嘉實さん「新しいもの(施設)がほしいだけじゃないか。ということも単純には言えないわけですよ。実際に汚染物質が保管されているのかどうかということも、検査も出来ない状況ですから。」
基地の中がどんな風に使われているのか。何が起こっているのか。地元でさえわからない。アメリカ軍駐留の理不尽さを沖縄は背負わされ続けています。