県内に14つのアメリカ軍基地を抱える神奈川県では、沖縄と同じく、アメリカ兵による事件、事故が起こってきました。その中で、11年前、アメリカ兵による性暴力の被害にあった外国人女性がいます。
「ジェーンさん」として知られる彼女は、事件以来長い間トラウマに苦しんできましたが、「性暴力の被害者は恥ずかしくない」と去年、はじめて実名と素顔を明かしました。実名のキャサリン・フィッシャーとして歩み始めた彼女を追いました。
全国で2番目に多くのアメリカ兵が駐留する、神奈川県。横須賀は、広大な横須賀海軍基地を抱える街です。
横須賀市民「(Q.基地について)横須賀の人にとって?えーもう、あって当たり前?って言う感じですけど。」
横須賀市民「(Q.基地について)ここに基地があるので、アメリカ人の人がたくさんいるので、雰囲気もすごくフレンドリーだよね。」
「あって当たり前」の基地。しかしそこではこれまで数多くの苦しみが生み出されてきました。
キャサリンさん「この場所に立っているのはよくないわ。手をみて。ここから出たいわ。長くいられないの。」
オーストラリア人、キャサリン・フィッシャーさん。いまから11年前、この街で見ず知らずのアメリカ海兵に暴行されました。ケガを負い、直ぐにでも助けが必要な状態だったキャサリンさん。しかし、守ってくれる場所はありませんでした。
キャサリンさん「駆け込んだ警察署では、まるで犯罪者扱いでした。頼んでも病院にもいかせてくれない、レイプの検査キットもない、家族の元にも帰してもらなかったのです。」
警察から受けた酷い取り調べと事件のトラウマ。苦しみ続けるキャサリンさんに追い打ちをかけるように、事件直後に拘束された犯人は不起訴処分となり、裁判にも掛けられませんでした。
キャサリンさん「その日に、自分のソウル、魂が殺されちゃった。もう生きているという感じじゃなかったんですね。」
しかし、これはキャサリンさんだけではありません。2001年からの10年間だけでも、アメリカ兵らによる事件で(自動車などの業務上過失致死を除く)起訴されたのはおよそ800人。一方で、不起訴となったケースは4076人。起訴率は実に全体の16%です。
起訴か、不起訴か。ここに地位協定の問題があらわれます。協定では、アメリカ兵が公務中であれば、アメリカに。公務外であれば、日本に優先的に裁判権を行使する権利があります。
しかし協定には「他方の国がその権利の放棄」するよう要請を受けたら「好意的配慮を払わなければならない」とも書かれています。日本側が裁判権を持っているにもかかわらず、あえて使わない場合もあるというのです。
キャサリンさん「米兵がいて、アメリカの政府がいて、日本の政府がいて、私が真ん中だったんですよ。これ日本で起こったことなんですね。で、米兵がやった犯罪。でも日本の政府と話しちゃうと、何も話してくれない。米兵と話しちゃうと、米兵も返事してくれない。私どうしたらいい?」
そんなキャサリンさんを力づけたのが、5年前のある出来事でした。
キャサリンさん「これ足なんですよ、これ足で使って作りました。(Q:キャサリンさんの足?)そう。ずっと踏まれちゃったっていうこと。きれいの色がブライトな色を足に付けて、やり直した人生。」
その絵を描いたのは2008年。沖縄県で起きた少女暴行事件を受けて開かれた、県民大会に参加した時でした。
キャサリンさん「2008年の県民大会で、私はみんなの前で話しました。スピーチを終えて、ステージを降りたとき、70歳の女性がいたんです。私の手を握ってありがとうといいました。彼女も50年前にレイプされたと。でも『きょうから生きていきたい』と言ったのです。50年間も苦しんできたんですよ。沖縄は70年間苦しんでいる。その人たちは一体どこに行ったらいいの?」
今月はじめ、キャサリンさんは外務省で性暴力の被害者が24時間駆け込める救援センターの設置と、地位協定の改定を訴えました。しかし・・・
地位協定室「そもそも外務省に、そういう性犯罪被害者のカウンセリングとか、対策について、ごめんなさい、知識が全くなくてですね、これは警察庁とかに教えてもらっている状況です。また予算的な処置もうちもなくてですね。」
キャサリンさん「まず私の話聞いて、他の人の話聞いて、その後に予算がいくら必要か考えてください。」
キャサリンさんはある行動を決意します。11年前に自分自身が暴行された4月6日、思い出したくもなかったその日を「シロの日」と名付け、イベントを開催したのです。
イベント当日。東京は激しい雨。しかし、キャサリンさんの思いに共感した様々な国のミュージシャンが駆けつけました。キャサリンさんが披露したシーツ。そこには沖縄で起きた事件がびっしりと書き込まれていました。
キャサリンさん「平和のために、米兵が来ましたんですけど、何で沖縄と私たちはこうやって寝なくちゃいけないんですかということなんですけどね、死の枕ということはずっと殺されたり、レイプされているということが許せないこと。」
事件から11年。犯人のアメリカ兵を自力で見つけ出したキャサリンさん。来月、アメリカ本国での民事裁判がはじまります。
キャサリンさん「11年前に私のような人に出会いたかった。キャサリン、心配しなくていいよ。全部大丈夫だよって言ってくれる人がほしかった。そう、11年かかりました。すごく長いんですね。もうちょっと思ったんですけどね、11分じゃなくてね、11日とか、11か月とか、11年間ですね。どうしてジェーンさんこんなにがんばるってだっていっているんですけど、簡単ですよ、誇りなんです。日本の性暴力被害者の力になることが私の誇り。」