県内でもすっかりおなじみになった沖縄国際映画祭が、ことしも宜野湾市で開催されています。
期間中は、世界10の国や地域から74の映画が上映されているんですが、この中でひときわ注目を集めている作品があります。今回が初めての試みになるという映画の新しい楽しみ方を取材しました。
宜野湾市で開催中の沖縄国際映画祭。この日、ある映画を見ようと、平日にも関わらず、多くの観客が集まってきました。
登場したのは、この映画の監督。舞台挨拶かと思いきや・・・。
後藤ひろひと監督「この映画完成しておりません。撮れてないシーンを今から撮ります。(おぉー)そして完成させます。ただそのために皆さんにエキストラとして参加していただきます。」
実はこの映画、「エル・シュリケンVS(たい)悪魔の発明」は、映画を見に来た観客がその映画に出演することができる観客参加型の映画。観客が「出るシネマ」ということで、通称「デルシネ」と名付けられた新しい映画の楽しみ方なんです。
演技指導「ふにゃふにゃそう、顔もふにゃふにゃしていいから。思いっきりやったらめちゃくちゃ映画映るから、みんな必死にやりや。おーええぞ、後ろの黒いTシャツのぼく!」
初めは恥ずかしがっていた観客たちもプロのカメラに撮られているうちに、演技に熱が入ってきます。つい感極まってしまう子も。
演技指導「やっぱねスランプがあるんですよ。自分の演技に納得がいかないというので(笑)スランプがあるんですよ。」
一方、こちらの現場はスパルタ式です。
演技指導「エイサー!ハイヤッサッサー!ヤッサッサー、ヤッサッサーハイヤイヤサッサ―!はいストップ!はい跳んで!犬になる!犬になる!」
脚本が渡されることはありません。自分がどんなシーンを演じているのか、知らされないまま続く撮影。映画への不安と期待が高まります。
女の子2人組「難しかったです。(Q.どういうところが難しかった?)大声?大声出すところ(笑)」
男の子「いや何やってんのかわからなかったです正直。でもめっちゃ楽しかったです。どうなるか楽しみです。」
この問題作、もとい意欲作を映画界に投じたのは、舞台脚本家として知られる後藤ひろひとさん。
後藤ひろひと監督「今ね3D映画というね飛び出す映画が世界標準になってるんですけど、それより新しいものは何かと考えたら、見に来たお客さんが出てしまうという映画が生まれたら面白いだろうなと思って。」
撮影された素材は、専門のスタッフによる編集作業へ。本編に、観客の出演シーンをはめこんでいきます。
ストーリーは、正義の覆面レスラー、エル・シュリケンが悪の組織と闘うドタバタ劇。いよいよ銀幕デビューの瞬間です・・・。
自分の姿を見つけ、歓声を上げる観客たち。役どころが悪の組織に操られた「抜け殻人間」と判明しても大喜びです。
後藤ひろひと監督「出てくるのは自分たちなわけですから、それを見て指をさして拍手をしたり大きな声を上げて笑ったり、最後のエンドロールなんか自分たちが出てきたら大拍手になるわけですよ。そんなふうに映画を見る習慣って今の日本にはないじゃないですか。お客さんがわいわい騒ぎながら声を出しながら見る映画というのはぜひやってみたいと思いましたし、すごくハッピーな時間になるんじゃないかなと思って。やってみたらそれがもう大成功でしたね。」
3人組の男の子へインタビュー「楽しかった。すごいなーと思った。芸能人と一緒になってるみたい。」「史上初人生初だから。」「心に残る思い出。」
女の子たちへインタビュー「(Q.自分の出たシーン見つけられた?)うん見つけられた。一番前だったので超ヘンテコだった。(Q.どういうところが楽しかった?)あはははは全部!」
「映画に出る」という新しい楽しみを知った観客たち。3D映画の次は、「デルシネ」の時代がやって来るのかもしれません。
この映画「エル・シュリケンVS(たい)悪魔の発明」は、あす、那覇市の桜坂劇場で最後の上映が行われます。12時半から無料チケットの配布があるということなので、映画に出てみたい!と思った方は、ぜひ足を運んでみてください。