「法的利益が侵害されたとはいえない」裁判所の判断は、変わりませんでした。
家族を無断で靖国神社に合祀され、精神的苦痛を受けたなどとして、遺族5人が合祀取り消しと損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は6日、原告の請求を棄却した1審判決を支持し、控訴を棄却しました。
この裁判では、国が戦没者の情報を遺族に無断で靖国神社に提供し、この情報をもとに靖国神社が合祀したため、精神的苦痛を受けたとして、遺族5人が国に対して1人10万円の損害賠償を、靖国神社に対しては名簿からの抹消を求めていました。
6日の控訴審判決で橋本良成裁判長は「原告らがその内心的領域で受け入れ難いと感じることは理解しうるが、法的に救済されるべき利益の侵害はない」などとして、一審判決を支持し、控訴を棄却しました。
池宮城弁護士は会見で「家族が靖国に祀られることによる著しい精神的苦痛を理解しないものであって、極めて不当な判決であると弾劾せざるを得ません」と話しました。
取材にあたった中村記者です。中村さん、控訴審では何が争点になったのでしょうか。
中村記者「今回の控訴審についてですが主な争点として裁判所は3点を挙げていました。(1)原告に法的利益の侵害があるか、(2)国による神社への情報提供は共同不法行為にあたるか、(3)情報提供行為は国家賠償訴訟の対象となるか、の3点です」
中村記者「法的利益の侵害については、相容れない宗教に対する不快感・嫌悪感を受けたこと自体を利益侵害とすれば、一方の教義を否定することになる。今回の場合でいうと、靖国神社の信教の自由を害することになるとして、法的利益が侵害されたとはいえないとしました。また、国による情報提供行為は、周辺付随的な事務に過ぎないので共同不法行為にあたらない、そして、原告の法的利益が侵害されていない以上、国家賠償法上、違法ともならないとして、一審判決を指示し、控訴を棄却しました」
全面敗訴だった一審と全く変わらない内容ですね。靖国神社を巡っては、全国で他にも訴訟が起きていますが、今回の裁判はどのように位置づけられるのでしょうか。
中村記者「去年12月、大阪高裁は賠償こそ認めなかったものの、国が神社に対して情報を提供したことが宗教行為の援助・助長にあたるとして、憲法が定めた政教分離の原則に反すると判断しました。沖縄の裁判ではこの点については、単なる『周辺付随事務』にすぎないと判断しました。そればかりか、裁判所はは今回『原告の主張を突き詰めると神社の教義や宗教的行為を否定することにつながりかねない』と言っています。これは、祀らないでくれとあまりに主張すると、相手の権利を侵害するとまでとまで言っているんです。一審では司法は立ち入れないというところに留まっていたものが、大きく後退したと弁護団は話していました」
今回は、援護金を受給するために「積極的な戦闘参加者」だと申請したとする当時の援護課の担当者の証言もありましたが、あっさり終わりましたね。
中村記者「沖縄戦の被害者が、援護法の手続きの中で加害者に変わっていくからくりを理解してほしいという原告の努力があったわけですが、議論はかみ合いませんでした。原告らは沖縄戦の実相を抹殺するものだと憤りながらも、この裁判は戦中・戦後の実態を広く世に問うためにも、継続する意味は大きいと考えていて、上告する方針でいます」