ことし1月、沖縄市で前の車を追い越そうとした乗用車がハンドル操作を誤って対向車線に進入。軽乗用車と正面衝突する事故があり、軽乗用車を運転していた当時19歳の男性が亡くなりました。
乗用車を運転していたのは、アメリカ軍キャンプフォスターに勤務しているアメリカ軍属の男性で、男性は自動車運転過失致死の容疑で書類送検されました。
しかし、那覇地検はアメリカ軍属の男性が事故を起こしたのは仕事からの帰宅途中であり「公務中」と判断。日米地位協定17条に基づいて、男性を不起訴処分としました。
日米地位協定第17条では、アメリカ軍人・軍属が「公務中」に起こした事件・事故について、第一次裁判権はアメリカ側にあることを謳っています。つまり、軍人・軍属の公務中の事件事故については、日本で刑事裁判を開くのではなく、アメリカ軍が裁判を行うということです。
遺族「事故の内容とかを話した後、日米地位協定に基づいて、公務中なので第一次裁判権は米軍側にある。それで日本側としては仕方ないから不起訴にするしかないって」
そもそも、どうして公務中の事件・事故について、日本側に第一次裁判権がないのでしょうか。
池宮城弁護士「国際的な条約関係でありうることなんですが、その中身が大変不平等」
地位協定を結ぶことや公務中の裁判権について、取り決めがあること自体は必要なことですが、日本とアメリカの場合は、対等な関係ではないと池宮城弁護士は説明します。
これは、1953年に法務省刑事局から検事長と検事正に送られた、アメリカ軍人・軍属に対する刑事裁判権の実務資料のコピーです。資料の裁判権の行使に関する部分には、実質的に重要な事件以外は日本側が裁判権を行使しないとする指示が書かれています。さらに―。
(米)「合衆国軍隊の構成員または軍属が正規の勤務日における勤務中に飲酒したとしても単に飲酒したということだけでは必ずしも公務の性格を失うものではない」
(日)「然り」
(米)「何が公の催事であるかということを決定するものは誰か」
(日)「当該指揮官または指揮官に代わるべき者が一応の決定をすることとなる」
1972年の資料には、日米合同委員会で「公の催事」での飲酒も公務と認定し、その催事が公がどうかの判断もアメリカ軍側が決定することを合意したとも記されています。
また、国会の答弁などで明らかになった公務中による不起訴の数(道交法違反のみ)は2002年から2004年の3年間で206件。直近の2009年には、公務中が理由の不起訴の数は明らかになっていませんが、軍人・軍属による交通事故など100件のうち公務証明書の発行は94通に及んでいます。
遺族「私が訴えないで、そのままこれを受け入れたら、子どもにも申し訳ない」
遺族は先月25日、軍属の男性の不起訴を不当として、検察審査会に申し立てを行いました。
しかし今月11日、検察審査会での審議結果が出る前に、担当検事から軍属男性の処分は運転禁止5年という懲戒処分だと伝えられました。
池宮城弁護士「遺族の母親とも話したんですが、絶対承服できないと。これは行政処分なんです。決して刑事裁判じゃない。それで許されると。これが実態」
運転禁止という行政処分。アメリカ軍人なら軍法会議にかけるところを、軍属についてはそれができないことになっているというのです。
池宮城弁護士「軍法会議にかけるってのは刑事処分。場合によっては禁固刑とか懲役何年とか。これが軍法会議でなされる刑事罰なんです。しかし軍属はそれができないということですから、結局、行政処分、免停だけで済ませたということです」
遺族「相手にも不満とかいろいろあるんですが、日本側にもやっぱりある。ちゃんとすべきことをしてほしいです」
本来なら刑事裁判で問われていたはずの今回の事件。批判は刑事裁判に問われないことを知りながら、地位協定を改定することなく放置した国にも向けられています。