Qリポートです。自らの命を絶つひとはいま、年間3万人を超えます。政府はことしから自殺者の増える3月を、対策強化月間とさだめキャンペーンを開始しました。しかしここ沖縄も、実は深刻な状況なのです。
去年、県内で自殺した人の数は400人を超え、過去最悪となりました。その数は全国で3位という事態。その8割は男性、30代から50代、働き盛りと呼ばれる世代です。
県内で自殺する人の数は90年代から増加、1998年にとうとう300人を超えてからは、毎年多くの人が命を絶っています。不況など、社会経済の変化も自殺を引き起こす大きな要因といわれています。自殺はなぜ起きるのか。突発的なものでしょうか?そして、家族や周囲の人にとって、引き留める手立てはないのでしょうか。
仲本所長「私ども専門家からみるとそんな突発的な(自殺)はそんなに多いと思わない。家族とか一般の方から見ると“自殺のサイン”を見逃してしまうために、突発的にやったと思うケースがけっこう多いと思いますね」
突発的ではなく、自殺する人は何らかのサインを出している。そしてそのサインは、精神的障害によってあらわれてくると仲本所長は話しています。
仲本所長「自殺される方の45〜70パーセントは「うつ病」が関係してるといわれているんです。一番の自殺の原因はうつ病ですね」
40代から50代で自殺したひとの45パーセントがうつ病。アルコール依存症や統合失調症なども加えると、実に7割が精神的な障害を抱えていたということになります。自殺はその多くが、病を原因とすることが近年の調査で分かってきました。
うつ病が引き起こされる時には、幾つかのサインが体や心に現れるとされています。眠れない、肩こりや腰痛、食欲や味覚がなくなる。集中力や仕事の能率がおちた。これまで出来たこと、好きなことに興味がわかない。しかし、自律神経の不調で引き起こされるこれらのサインは患者も医者も見落としがちだという問題があります。
仲本所長「自律神経の症状というものは脳の中枢で起こってますからね、検査には出てこないんです。ですから“何でもないよ”と(医者に)言われると、もうその早い段階で治療しなくなるという方が非常に多い」
体調不良でまず行くのは、多くは内科です。しかし内科医も、患者本人ですら「サイン」は見落としがち。先日開かれた、かかりつけ医など初期治療にあたる医者を対象にしたうつ病対応研修会。多くの患者を早い段階でみつけ、メンタルクリニックや精神科へと正しくつなぐことが、うつ病対策の第一歩といえます。
しかし「精神科」「メンタルクリニック」というものに偏見や抵抗を持つ人はまだ多く、それで初期の対応が遅くなることがしばしば見受けられます。これで症状が進み、自殺を考える人が確実に多くなると精神科医は指摘します。
稲田先生「我慢づよい、人に配慮する、気配りをする方が多いですからなかなか自ら死を考えるとか自殺ということを語る人はあまり多くない」うつ病は特別な病気ではありあません。現代に生きる私たち全員が、そのきっかけを持っているのです。まずはそのことを理解することが、うつ病を理解する第一歩になります。
稲田先生「いまのIT社会、複雑でスピードのある社会は神経使います。みんな疲れてます。神経の疲労、うつ病は脳の疲労で心と体の疲労ですから誰にでも起こりうる話。そうなります」
県でも自殺対策を強化しています。このサイトは、先月から公開されている「睡眠キャンペーン」。うつ病や精神的ストレスで引き起こされる障害の、第一のサインは「睡眠」。そこから無気力になり、気分が沈むなど多くのサインがあらわれてきます。
稲田先生「楽しめなくなる、意欲が出なくなる、眠れなくなると。さまざまなことがふだんのこの人と違うなと周りが見て明らかに何か変だなと思ったら、そのひとつに“うつかもしれない”という意識を周りが持つことが大事です」
那覇市内の企業で働く高良さんがうつ病になったきっかけは5年前に心筋梗塞で倒れたことがきっかけでした。また倒れるのではないか。恐怖で不安になり、眠れなくなった高良さんは、どんどんネガティブになっていったといいます。
高良さん「人それぞれいろんな理由があると思いますけど、そういう考えすぎて眠れない、私の場合は病気が再発するんじゃないかという恐怖で眠れないとか」
不安は強くなり、睡眠時間はどんどん短くなりました。リラックスすることができなくなったのです。2年前、高良さんは自分の心身の異常に気付きます。食べ物の味が分からなくなり、仕事のミスが増え、そしてある日の会議の席上、高良さんは突然、言葉が出なくなりました。
高良さん「それがまったくできなくなって、ぱっと真っ白になってなにも喋れなくなってしまった。今まで本当にこんなことは無くて、これはもう間違いなく、今まで思い当たることがぽつぽつあって見ないようにしてたんですがこれはどうやら無視できないと」
心療内科をおとずれた高良さん診断結果は「うつ病」だった。
高良さん「ショックというよりも…ああ。俺でもかかるんだと。あまり自分とは無縁の病気かと思ってたものが、あ、自分でもかかっちゃうんだ、と」そこから、高良さんのうつとの戦いが始まりました抗うつ薬治療による起き上がれないほどの副作用、何もやる気が起きず、不安で泣き叫んだこともあるといいます。しかし妻は高良さんと病院に通って、生活と治療をサポートし、小さな子どもたちは素直な心で父親を元気づけました。
職場でも、高良さんのことをきっかけにうつ病の理解のため研修をひらいたり、メンタル専門の産業医を迎えるなど復職支援に全力を尽くしたことも、高良さんを勇気づけました。ひとりではない、という実感。本人の治療だけではなく周りの理解と協力が、症状を改善させていきました。
高良さん「治してくれるという気持、僕もそれを感じて、ああ、やんなきゃいけないということでなくて僕も“治したい”という気持があるから、手を差し伸べてくれてるから僕もこの人の力を借りてどうにか、這い上がっていこうという思いだけなんです。実は」
高良さんは2年前から治療とカウンセリング、リハビリプログラムに励み、去年4月から現場に復帰。職場の理解もあって去年10月から通常勤務を継続しています。ふとしたきっかけで気持ちが空回りしたり、社会から孤立したと感じるとき誰でもかかる心の病が「うつ」。体や心の不調に気付いた時は、早めに身近なひとに相談したり、正しい情報を得ることが大切です。