沖縄本島周辺のサンゴは9割が消えたといわれていますが、10年前の大規模なサンゴの白化を乗り越えた日本最大のサンゴ礁海域・石西礁湖が、今かつてない危機に陥っています。
去年の夏、98年を上回る規模の白化に襲われ、すっかり様相が変わってしまいました。その石西礁湖でなんとか自社の技術を役立てられないかと、サンゴの再生に乗り出している企業があります。
400種類以上のサンゴがひしめき合う石西礁湖は、沖縄の島々にもサンゴの幼生を供給する重要なポイントで、国立公園に指定されています
しかし、去年まで良好だった場所が、すっかりサンゴの墓場のように変わってしまいました。去年夏の高水温の影響で、調査ポイントの8割で80%のサンゴが白化、場所によってはほぼ全滅の状態です。
多くの命を育み、二酸化炭素を吸収する重要な役割を果たすサンゴ礁。あと数十年でサンゴが地球から消えると予測する専門家もいます。
そんな状況を目の当たりにして、立ち上がった企業があります。三菱重工鉄鋼エンジニアリング。明石海峡大橋など、日本を代表する橋を手掛ける一方で、離島では浮桟橋などを作ってきました。
船が日常の足となる離島。潮の満ち引きでできる岸壁との段差が悩みでしたが、フロート構造になっている「浮桟橋」の開発で、桟橋が潮の満ち引きに合わせて上下してくれるために乗り降りが楽になりました。
三菱重工の売りは「揺れない浮桟橋」。水中につけたこの「フィンスタビライザー」のようなボードが横揺れを防ぐ秘密です。ところがこのボードには多くの付着物が。
それは大量のサンゴでした。浮桟橋の両側には、おととしの竣工当時から自然にサンゴの幼生が付着し、ぐんぐん成長していたのです
三菱重工鉄鋼エンジニアリング・逸見雅人常務「竹富の浮桟橋の側面に、自然にサンゴがくっついていた。(電気防蝕の)電位があるところにサンゴが結構よく付いている。面白いなということで」
この浮桟橋は、鉄構造が錆びないように「電気防蝕」の技術を使っています。桟橋の裏にアルミニウムを取り付け、鉄との間に微弱な電流が発生するため、鉄が錆びない。その微弱な電流が流れているところを選ぶように、サンゴがついています。
すぐわきの普通のコンクリートの護岸にはサンゴはついていません。港の中は透明度も悪く、決して条件も良くありません。
三菱重工鉄鋼エンジニアリング・木原一禎さん「濁りも多いし、汚いしという環境の中でも爆発的に育っているというのはかなりびっくりした。これを利用すれば、環境再生というか、最初は修復という考えだったが、再生、創造という立場でできるのでは」
偶然の成果に大きな可能性を感じた木原さんたちは、微弱電流でサンゴの成長を促進している海外の事例も研究し、「防蝕技術を応用したサンゴ再生」という新たな分野に乗り出しました。
イメージは「サンゴの農場」。電着技術で強化されたサンゴをたくさん育て、サンゴが消えつつある海域に設置するのです。
サンゴが元気な海域では、一部が白化しても残った元気なサンゴが卵や幼生を放出すれば再生は可能です。しかし、大部分が白化してしまうとどこからも赤ちゃんが流れてこないので、その海域は死んでしまいます。
そこに、温暖化にも強い電着サンゴを棚ごと設置し、サンゴの残骸が全部朽ち果てる前に再生につなげるという計画です。
この絵を描いた木原さんは、大学時代からのヨットマン。根っから海が好きで、今は年に3か月は背広を脱いでウェットスーツを着ています。
去年3月に始まった三菱重工の実験場です。こちらは0.1アンペアの微弱電流を流している棚。移植されたサンゴが、鉄筋の上にしっかりと根付いて成長しています。
中央にある四角い棒がマグネシウムで陽極となり、鉄筋との間に電流が起こります。
こちらはもっとも強い0.5アンペアの電流を流れています。鉄筋に海中のカルシウムイオンがたくさん付着し、太くなっているのがわかります。
サンゴも同じく、カルシウムイオンを海水から取り込んで骨格を作る動物なので、ある一定の電流は骨格作りを助けてくれるのです。
しかし、同条件でも0.1アンペアのほうがサンゴが大きくなっています。電流が強いと炭酸カルシウムの付着の勢いが良すぎてサンゴの根元が弱るようです。
このように電位測定端子を使って、ここのサンゴに最も適した電流の強さを割りだすのです。
木原さん「去年この辺の海は、昔の海を知ってる人は涙が出るくらい悲しかったと思う。この海はどこでもサンゴが育つと思っていますから、できるだけ被害が少ない所に置いて、そこで増やしてやるとか、昔あったところにおいて再生するというのが夢です」
でも、会社としてのビジネスモデルにはまだ程遠いといいます。
逸見常務「企業の事業活動そのものにはあまり寄与していないが、少しはいいかなと。構造物を作るにおいて、痛めた自然を少しずつでも戻せる。そんな気持ちでやってます」