今月は自殺予防月間。県内でおととし自殺で亡くなった人は400人で、その原因の3位になっているのがうつ病などの精神疾患です。こうした中「うつ病になっても全てを失うわけではない」と各地で訴える男性がいます。男性の活動の様子を取材しました。
新垣賢昇さん「自分自身が生きていく意味がないというか、必要ない存在じゃないかと、自ら命を絶ちそうな時期がありました」
新垣賢昇さん。各地でうつ病と闘った体験を講演し、うつに対する正しい理解を呼びかけています。
新垣さんは12年間、浦添市役所に勤務。保健師としてうつ病や統合失調症の人たちの支援にあたっていました。そんな彼がうつと診断されたのは3年前。真面目な仕事ぶりが職場で評価される一方、それがプレッシャーになっていたのです。
新垣さん「僕自身が人の評価で生きている人間だったし、酒とか仕事とかで、心の隙間を埋めようとしたし」
自殺願望に襲われるほど追いつめられ、結局、休職を余儀なくされました。当時の苦しさは詩に綴られています。
『自分は独りぼっちだった。周りに人はいるのに、独りぼっちだった。自分は周りから見えない、自分の声が届かない。まるで透明人間のような存在』
一日中床に伏したまま新垣さんを唯一外に連れ出してくれるものがありました。それは病床で、ふと頭に浮かんだ自転車。自転車は、今まで気に留めることもなかった小さな草花の存在に目を向けさせ、心に余裕を持たせてくれたのです。
新垣さん「色々と気づかなかったもの、自然だとか、海だとか、本当に自然に生かされているんだということを実感しました。当たり前のことが当たり前じゃなくて、とても素晴らしいことなんだとか」
新垣さんの闘病生活を支えたのが奥さんです。夫がうつと診断された後も、自然体でただ黙って回復を見守りました。
新垣さん「ずっと対応は一緒です、受診する前も後も」
妻・清乃さん「本来の姿にいつかは戻って、元気を取り戻すのを信じられるというんですか。見守って信じて待っているという地味なんですけど、それでも何と言うか元気になるんじゃないかという感じがして」
家族の支えもあり、1年3ヶ月の休職期間を経て職場復帰を果たしました。しかし、わずか1年で退職します。もう次の目標を見つけていたのです。
今は各地で自身の闘病体験を講演しています。この日は、うつになって気がついた「ありのままの自分を受け入れ、頑張っている自分を誉めてあげることの大切さ」を呼びかけました。
新垣さん「賢昇ありがとう、よくやったねって。たくさんたくさん、いっぱいいっぱい言ってあげるんですよ」
そんな話を聞き、会場から声が。女性は夫の介護に追われ、自分を大切にすることを忘れていたと告白します。
会場の女性「自分を大切にしなさいというという言葉に、自分自身にありがとうという言葉に、とても感激したんです。全部当たり前、やっている仕事も全部私がやるのが当たり前ということしか感じなくて」
顔の見える距離でうつに悩む人や、うつになりそうなくらい悩んでいる人たちの力になりたい。それは彼がかつて求めていたことでもありました。
新垣さん「遠い、どこかの名前しか知らないような本当にいるのかどうかわからないような人じゃなくて、顔も見れて、当事者の声が欲しかった。今全部やっているのは、自分のため」
講演や相談の依頼も徐々に増えています。こうした活動が評価され、金融機関から助成金も贈られました。
うつになった自分を受け入れたからこそ見つけられた新しい目的。新垣さんは暗いトンネルの向こうには、必ず晴れ間が広がっていると教えてくれています。
新垣さん「うつになったことで生き方が変わった方もいますし、逆に幸せに満ち溢れている人もいっぱいいるし、あきらめないで生きてくださいというのを僕は伝えたい」
この本は新垣さんが闘病中に綴った詩集と今年5月に出版されたエッセー集です。
実は新垣さんの奥さんも一時はうつ病になり、ダウンしてしまったということなんですが、周囲の人たちの支えで元気になりました。
うつ病の人を支える家族もどう接していいかわからず、戸惑うといいます。新垣さんは自分の体験を聞いたり、読んだりして、うつに対する偏見がなくなれば、正しく理解してくれればと話していました。