社員研修など、人材研修を専門としたダイビングプログラムを提供するベンチャー企業があります。沖縄の海を活かした、笑いと涙の研修に密着しました。
那覇空港に到着したのは、愛知県の人材派遣会社に来年入社予定の内定者6人と現役社員2人の合わせて8人。顔を会わせるのはまだ数回目という彼らは、これから3泊4日のちょっと変わった研修に参加します。
クオリアダイブ・布垣明取締役「海の中に入ると、男性であろうが女性であろうが、年配であろうが年下であろうが、一切関係ない。本当に一人の人間という価値観になります」
人材研修を専門としたダイビングプログラムを提供するのは、クオリアダイブ。今回研修に参加した人材派遣の日本リガメントが2年前に沖縄で立ち上げました。水の中という、あえて過酷な状況に身を置くことで、コミュニケーション能力や自分自身を見つめる力を育てるというのです。
内定者の大学生、木村泰知さん。初日の講義では、休憩時間のたびにひとり席を離れていました。
木村泰知さん「びっくりしました。何でダイビングなんだろうって。他の人といろんなコミュニケーションが取れるようになりたい。いまあんまりとれてないんで」
研修の特徴は、2人1組で行動するダイビングのバディシステムが全ての日程で用いられること。木村君のバディは、同じ苗字の木村寿々香さん。ほとんどの参加者はダイビング経験はゼロ。木村寿々香さんは内定者の中で唯一、ライセンスを持つ経験者です。
木村寿々香さん「信頼感とか、もっと心からお互いを思いやれるような気持が、自分だけでなくみんなに生まれたらいいなと思います」
2日目はプールでの実習。
木村寿々香さん「1,2ってあげて、フーって吐くと下がっていくから」
画面右側の木村泰知さん。なかなかバランスをとることができず、木村寿々香さんに支えてもらいます。
布垣さん「ダイビングの場合、いかに心と体をリラックスさせるかがポイント。あとは、バディ同士のアイコンタクトと確認です」
これは万が一、水中マスクが外れた場合の対処方法を練習しているところ。木村泰知さん、木村寿々香さんにしっかりと支えてもらいながらなんとかできました。一方こちらは、自分の酸素が無くなったことを想定したレスキュー訓練。お互い、バディの状態を慎重に確認しながら一つの酸素を共有します。
木村泰知さん「怖かったです。息がちゃんとできるかなというのが、不安でした」
研修3日目、いよいよ海での実習です。参加者全員、少し緊張気味。一行は慶良間諸島へ向かいました。
布垣さん「本当に、今以上に確認してくださいね。バディとアイコンタクト、本当に」
潜水前の安全確認もバディ同士、真剣な表情。ゆっくりと潜るメンバー。
ここで、トラブルが起きました。耳の不調を訴えているのは、木村寿々香さん。水圧の変化に対応する、いわゆる「耳抜き」がうまくできないようです。木村泰知さんも心配そうに見つめます。
そして数分後、ようやく全員が海底に降りることができました。
手と手を握るメンバー。そして、じっと目を閉じます。水中の音と、バディの存在だけを全身で感じるのです。
この研修を考案したのは、グループ従業員4600人を束ねる田中会長。
日本リガメント・田中正次会長「自然の体験の中で、いかに自分が無力であるってことを知るきっかけ、そんなのをここでいただけるということ。それは何かというと、自分を見つめなおす機会が絶対できるんです。だから、上司と部下、もしくは同僚、親と子どもとか、言葉にできないひとつの壁を誰がとってくれるのとかいったときに、この海がとってくれる。そのツールがダイビングだと思うんですよ」
午後、2回目のエントリー。そこには耳抜きを心配する木村寿々香さんをしっかりとリードす木村泰知さんの姿がありました。
これまでに研修を利用したのは6企業123人。県内のダイビング事業に新しい付加価値を付けたベンチャービジネスとしても注目されています。
最終日。参加者はここで4日間の自分を振り返ります。
木村泰知さん「素直に、自分のありのままの姿を見せるということが、すごい大切だなというふうに思いました」
木村寿々香さん「どちらかといえば、しっかりしてるって見られているほうだった。でも彼は私のほうをじっと見て、すごくこまめに(耳は)大丈夫って聞いてくれて、いつからこんなに頼もしくなったのかなって。それで自分の弱い部分を認めることができたし」
田中会長「能力主義だとか、割り切る社会があまりにも浸透しすぎて、共同で何かをするとか、みんなの力を借りて何かを成しうるとか、そういうものが欠けていると。人材の考え方、教育をして育てるということを、今の企業がちょっと見落としている部分があるから、ゆっくり、じっくりととはいかないかもしれないけど、教育っていうのは、最低限、人間として育ててあげていかないことをもう一度見直すべきだと思う」
沖縄の海で育まれた絆がいま、日本の企業を変えようとしています。
この会社、内定者研修は今回が3回目ということですが、研修の参加者は、会社を誰も辞めていないということです。若者の早期離職が社会問題となるなか、企業の人材育成を見直す取組みとしても注目されています。