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大小多くの離島を持つ沖縄。流通の不便さに苦労している離島も少なくありません。沖縄本島から東におよそ360キロ離れた北大東島です。この島には実は「本屋さん」が一軒もありません。

しかし、年に一度だけ本屋さんがやって来ます。北大東の人が毎年楽しみに待っている本屋さんに密着しました。

「うふあがり島」、沖縄本島から「はるか東にある島」として、古来そう呼ばれてきた北大東島。周囲約13.5キロ。険しい岸壁で囲まれる絶海の孤島で、戦前栄えた燐鉱石の採掘事業は今に名残りをしています。人口はおよそ560人。この小さな島には本屋さんがありません。

男の子「ワクワクします。漫画とか買いたいです」

女の子「どんな本が来るのかな〜って」

お母さん「すごい楽しみにしています。だってそういうのがないですからね」

年に一度の本屋さんが開かれる前日。島中が待ちわびていました。中でも、小学5年生の沖山晟太郎君は格別でした。

沖山晟太郎くん「ここでは1年に1回しか売ってないから。(本屋さんが来るのをどんな気持ちで待っていたの?)ドキドキしていた。家のお手伝いでお金をコツコツ貯めていって。(それで貯まったお金で買うんだ?)はい!」

北大東島に図書館は一つだけ。小中学校の図書館を島の人全員で利用しています。本に出会える場はここしかないのです。

花尻享先生「本が日常的にあるのが当たり前だったんですけど、こっちに来て、学校の図書館にしか本がないということで正直ビックリですよね」

中山愛子先生「本島の子に比べたら読まない子は一人もいないし、いっぱい借りていきます」

花尻享先生「図書館を見てもらえれば分かると思うんですけど、本自体は綺麗にしていて、子ども達もちょっと破れていたりすると自分達で自主的にテープで直したり(している)」

ないからこそ、育まれていく豊かな心。北大東島では本を捨てることはないと言います。

「リブロ」的場真由美店長「島に行くと、本というのはこんなに大切なんだ、本に会えるのが嬉しいというのを感じましたね」

年に一度、出張本屋さんに行くのは那覇市内にある書店「リブロ」。今回は約4000冊の本を持って行きます。今年、その大きな役目を担ったが宮里ゆり子さんでした。

宮里ゆり子さん「私にとってもすごい特別なイベントになるので、楽しみですね」

島の人が喜んでくれる本をと、宮里さんらスタッフが選び抜いて箱詰めにされた本は、3週間前、港に運ばれ、先に船で送られました。

宮里さんは前日、北大東に飛行機で到着。すぐに会場に向かい、荷を解いて、役場の人達と一緒に設営に取り掛かり、明日に備えました。

宮里ゆり子さん「何か一仕事終えたって感じですけど、明日が本番ですからね。期待に応えられるかと思います」

そして翌日、ついに1年間待った本屋さんの開店です。

4000冊の雑誌や本を前に、目を輝かせる子ども達。こうやって、本を手にとって選べる喜びを味わっていました。

女の子「まだ選んでない(何でまだ選んでないの?)いっぱい、多すぎて」

男の子「たま〜に本が買えるという楽しみが味わえるというか」

喜んでいるのは子ども達だけではありません。

お母さん「めったに買えないものだし、大事に見ないといけない。希少価値がありますね」

先生「一週間前から、もうみんな楽しみに。学校でもよく話しをしています。大人も楽しみですね」

お父さん「(本屋が)来るよ〜って言っただけで子ども達は喜んで。何が買いたいと事前に話しをするもんですから、仕事を休んででも一緒に行かないといけないかなと」

男の子「この日のために何も買わないでずっと貯めていました。トイレに入ってトイレで見る」

そして、本屋さんが来るのを首を長くして待っていたあの晟太郎くんは・・・?

沖山晟太郎くん「選びきれないくらいあったからびっくりした。後は・・来年買うしかないです。(来年はどんな本が欲しいですか?)選んだ本で、その2巻目が欲しいです。(じゃあ、1年間待つの?)うん!買えるんだったら待ちます」

年に一度だけの本屋さん。そこでは、本との出会いとともに、届ける側の心と受け取る側の心が再会を果たす場所にもなっていました。

宮里ゆり子さん「どんなに赤字だと言われようとも続けられるだけ続けていたい。とても特別な日だと思います」

この出張本屋さん、もともとは教職員などが出資して作られた本屋さん「文教図書」が十数年前に始めたものですが、「文教図書」がなくなったあと、今の「リブロ」が受け継いでいます。今年は2日間で510冊の本が売れました。

都会にいると、本がそばにあるのが当たり前で、つい、本との出会いの喜びというのを忘れてしまいがちですが、北大東の、特に子ども達の表情は、あらためて本の大切さなどを感じさせてくれました。