ステーションQではきょうから水曜日に環境問題をテーマにした新企画『美ら島の提案』をお送りします。1回目は八重山の海のサンゴの白化現象。
魚たちの産卵の場となっているサンゴ礁の危機的な状況は、漁民たちにも大きな不安を与えています。その漁民たちがある取り組みに乗り出しました。久田記者です。
先月下旬、八重山漁協を訪れた私たちは変わった光景に遭遇しました。
地元漁師の砂川さんが一生懸命になっていたのは、溶接の作業。海に沈めるアンカーを作っていました。漁を休んで1から手作り。この4月から立ち入り禁止となる海域に、目印としてブイを設置するためです。
八重山漁協・砂川政信さん「もう目に見えて年々減っていってるもんだから。右肩下がりで減っていってるもんだから、どうしようもないですよね。減っていくばかりで」
八重山の漁協では近年、漁獲高が激減。サンゴ礁近くで獲れる魚は30年前のわずか4分の1です。その上、価格の低下も相まって、生活は厳しくなっています。そこで漁獲高を増やそうと、海洋保護区を設置することにしたのです。
砂川さん「(漁獲減少の原因は)いろいろあると思います。乱獲もあるだろうし、産卵時期に多くとりすぎるというのもあるもんだから、産卵時期に漁場に入れないようにして、なるべく多く卵を産卵させる、そういう狙いです」
海洋保護区にするのは、魚たちの産卵場所となっているサンゴ礁。4月から6月の産卵期に、ここにやってくる群れを一網打尽にするこれまでの獲り方を止め、魚の繁殖を待ちます。「将来なにも獲れなくなってしまう」と危惧する漁師の崖っぷちの選択です。その大切なサンゴ礁が今、危機的状況にあるのです。
これは去年の白化の様子。ほとんど全てのサンゴが白化しています。八重山の海では、98年の大規模な白化以降、白化は断続的に発生しています。
主な原因は海水温の上昇です。水温が30度を超えると、サンゴの中に住む「褐虫藻」がサンゴから出て行き、白くなります。褐虫藻は水温がすぐに下がればサンゴに戻ってくることもありますが、水温が高いままだと戻ってこれず、サンゴは死にます。
研究も進んでいます。環境省は2年前、専門家たちを集めた協議会を発足させ、サンゴの再生の方法を模索しています。
九州大学大学院・野島哲理学博士「特に去年のサンゴの白化の結果、(リーフの)中側のほうは生きてるサンゴが非常に少なくなってしまった。だから外のほうに生き残ったサンゴが子どもをこれから生んで、中のほうにどうやって子どもを自然再生させていくか」
去年、八重山の海は7月下旬から8月上旬まで、およそ20日間、平均水温が30度以上という日が続きました。その合計時間は去年の4倍以上。このため、全体の4割近いサンゴが白化したのち、死にました。
「産卵場所のサンゴが激減すれば魚が来なくなる」と、漁師たちも危機感を抱いています。
砂川さん「多少はあるんじゃないですか。白化してるから、魚が減ってるとは言えないですけど。ハタ類とかもそうで、ハマサンゴとかを住処にしてるし。いろいろいますね」
こうしたなかで、先月開かれた自然再生協議会。2年前に移植したサンゴの研究結果が発表されました。特殊な道具に着床したサンゴの卵を、海中に設置したブロックの上で成長させるというものです。しかし・・・。
結果は、去年の白化でサンゴが弱ったところに台風が直撃したこともあり、移植したサンゴの生存率は2割、なかには全滅した種類もありました。別の移植調査では、3割から7割ほど生き残ったというデータもありますが、移植による再生はまだ確立されていません。
先週末、漁師たちは完成したブイの設置へ向かいました。この日は西表の北に広がる海域に設置。
砂川さん「減っていってるって言いながら何も対処しなかったら減っていく一方ですから、何か対策をしないと。これ(今の状態)でいいというわけじゃないだろうし、やってみる価値はあるし」
漁師たちの悲壮な思いがこもったブイが、八重山の海に浮かんでいます。
ウミンチュにとって、豊かな恵みをもたらしてきた海が、いろんな手を加えなければ漁もできなくなってきているんですね。この海洋保護区は6月までの3ヵ月間、ダイビング業者なども協力して、完全に海を休ませるということです。