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歌や踊りなど、民族芸能の豊な沖縄で、県産の楽器といえば三線や太鼓を連想してしまいますが、この程、クラシック音楽でおなじみの楽器、オーボエを作る工房が沖縄にできました。

工房誕生の裏には、沖縄生まれの演奏家の情熱がありました。

全ての楽器の中で最も演奏が難しく、そして美しい音色を奏でると言われる楽器“オーボエ”。木管楽器でありながら、複雑な金属のキーに覆われる独特の美しさは、楽器それ自体が芸術性を醸し出している。

このオーボエ作りの工房が去年10月、南城市に誕生した。

仲村幸夫社長「行動を起こすというのは一つのチャレンジだと思うんですね。チャレンジはとにかくやってみなければわからない」

「美ら音工房ヨーゼフ」の社長、仲村幸夫さん。県出身の仲村さんは、オーボエ奏者としてドイツで活躍した後、17年前に自らオーボエを作りはじめ、今や「ヨーゼフ」の名はヨーロッパを中心にブランドとして定着。高い評価を得ている。

仲村社長「良い演奏家が良い楽器を作るというのは当然のことだと私は思いますけどね」

3階建ての工房は、1階がオーボエの心臓部とも言える内側をくり抜く内径作りの場所。ここで材料に命が吹き込まれる。

2階では出来上がった木管に、金属のキーシステムを取り付けていくなど、実に根気のいる細かい作業が職人の分担作業で1本1本丁寧に黙々と行われていく。

そして3階で、仕上げの工程を経て、ヨーゼフブランドのオーボエが誕生するのだ。

職人の鯨井雅之さん「オーボエの中では世界一だと思うんですけどね」

年間400本を生産する工房だが、完成した楽器は仲村さん自ら吹いてみて、納得のいくものしか外には出さないというこだわりをもっている。

山城健哉工場長「自分が良しと思ったものしか出さない。(完成した楽器が)ちょっとでもおかしいと、その楽器を捨てちゃうというか、出さないんですよ。本当に赤字なんですけど」

仲村社長「手塩にかけた自分の我が子のように世に送り出して行くわけですから、本当に納得のできるような楽器しか出せないですよ。その辺は社員の人達にも、自分の考えを理解してもらうまでにはかなり時間がかかりました。妥協しないで作ればよい物はできると思います」

ところで、木管楽器は天然の木で作られるため、急激な温度や湿度の変化に敏感で、それが原因で木を傷めることにもなることから、それまでの埼玉工場から沖縄への移転は、周囲の多くから「難しいのでは」と囁かれた。

しかし、仲村さんは「材料の木はアフリカや南米など、暑い国の地域のものである上に、木管楽器そのものが常に吹き付ける息によって、湿気にさらされている事を考えれば問題はない」と移転を決意した。

仲村社長「違う可能性、“こうすればもっとこうなるんだ”ということを常に考えて、楽器作り、物作りをしていけば、絶対良いものができると思います。楽器産業か何かを沖縄でやってみたいというのがあった」

仲村社長「沖縄からそのまま世界へ物を売れる。世界のプレーヤーが沖縄産のオーボエを、楽器を使うことによって、文化を広めるということを考えると、かなり意義のあることだと思うんですね」

さらに仲村さんには、演奏者でしか分かり得ない楽器作りへのある思いがあった。

仲村社長「プレーヤーの人たちがヨーゼフの楽器を使うことによって、演奏がやりやすくなったんだとか、演奏家の寿命をそろそろリタイヤしたい人達でも10年20年長く吹けるようになったというような喜ぶ声をいっぱい聞けるようになると良い」

肺活量や複雑な指のテクニックなどが求められる演奏者の負担を、少しでも楽にして手助けをしたい。仲村さん故の気遣いだ。

仲村社長「平和の島、沖縄から(楽器を)作ることの意義もかなり高いと思います。世界中の人たちが幸せになってくれるような楽器を作りたいと思います」

仲村さんは今後、オーボエだけでなく、ピッコロなど他の楽器製作もはじめる考えで、今年の夏頃には沖縄産まれのクラリネットも誕生する予定です。