成人式に母が息子に贈った革靴、今にも賑やかな足音が聞こえてきそうなスニーカー。
しかし、これらの靴が履かれることはもうありません。あの日、元気に出かけた子どもたちが家族の元に帰ることはもうないのです。
生命のメッセージ展。事件や事故で亡くなった人たちゆかりの物が伝えることとは。
今月11日、東京から129人分の荷物が届きました。
沖縄での開催を企画したのは川満由美さん。強盗事件で夫を亡くした遺族です。
川満由美さん「一度はなくなってしまった命なんですけど、こういうメッセンジャーとして、姿を見せることができるというか、生きてきた証を見せることができるというのは素晴らしいことだと思う」
命のメッセージ展は、事件や事故の遺族たちが7年前から全国で開いています。亡くなった人たちの写真や思い出の物を通して、彼らの無念さ、そして短いながらも懸命に生きていた姿を伝えています。
今回初めて参加した佐藤悦子さんは、息子の成人式にプレゼントした思い出の靴と写真を展示しました。
佐藤悦子さん「ずっとずっと命がつながっているはずだった。それをある日突然に、飲酒運転の車に断ち切られてしまった。その無念さをこの写真を見ながら感じ取っていただきたいと思います」
毎日のように起きる悲しい出来事、重たい現実だけどきちんと向き合ってほしい、亡くなった人たちの声に耳を傾けてほしい、メッセージ展にはそんな母親たちの思いが込められています。
メッセージ展を始めた鈴木共子さん。早稲田大学に入学したばかりの一人息子を飲酒運転の車に奪われました。鈴木さんはわが子の意思を継いで大学に入学。去年の春には学生生活を全うしました。
鈴木さんが息子に宛てた決意のメッセージ。「お母さんは君を生きるよ・・・」
鈴木共子さん「子どもを亡くすのってね、生きる意味を見失うことなんですよ。その中で生きなくちゃならないとなったとき、私は生きる意味を模索してきた中に、色々なことを振り返ったら形になっていた」
会場ではそんな、ひたむきな家族に出会います。井上保孝さん、郁美さん。9年前、酒酔い運転のトラックに追突され、3歳と1歳の娘たちを亡くしました。井上さん夫妻は悪質交通事故の厳罰化に取り組む中心的な存在です。
井上郁美さん「元の生活には戻れないんですね。事故が無かったら、事件が起きなかったら。私たちの家族に起きてしまったことがもう繰り返されないように。多分それは私たちの人生をかけてライフワークになってしまうだろうなと思っているんですけど」
保孝さんに抱かれているのは、2ヶ月前に生まれたばかりの央子ちゃん。事故の後に授かった4人目の子どもです。交通事故の遺族として活動しながら、普通の暮らしを大切にする井上さん一家の姿は、多くの遺族の励みです。
沖縄で始めての開かれた生命のメッセージ展。3日間でおよそ540人が訪れました。
「こんなに小さい子が事故とかで亡くなるのは、母親として辛いなあという思いで見ています」「日本は法治国家だというけれど、何が法治国家だということで、大きく叫びたい気持ちです」
訪れた人たちに結んでもらっている赤い毛糸は絆を表しています。大切な人の分まで多くの人とつながって生きていこう、遺族たちの決意の表れでもあります。
川満由美さん「「すごく懐かしい人も来てくれたりして、主人に会いに来てくれたりしたので、すごく喜んでくれていると思います」
ある日突然、家族と別れなくてはならなくなった人たち。しかし彼らはここでメッセンジャーとしてよみがえり、私たちに生きていることはとても素晴らしいこと教えてくれました。