この後は、昨日からお送りしている「自立支援法を考える」の第2弾。
必要な介護時間を求めても認められる地域と認められない地域。格差は何故あるのでしょうか。障害者が24時間の介護を受けながら、活き活きと自立生活をおくる福岡を例に考えます。
「本件、審査請求を棄却します」
生きていくために必要な24時間の介護を求めて行なった2度にわたる不服審査請求。しかし切実な訴えは届きませんでした。
一言でいうと、大城渉君のような重度の障害を持った人は地域で生きるなという、そういう内容の裁決でした。現在、沖縄県内で24時間の介護給付を受けている障害者は一人もいません。しかし、他の都道府県に目を向けると状況は違います。
沖縄県の人口と近い福岡市を比較すると、在宅や施設などでサービスを受ける支給決定者の数が、福岡市が約5000人、沖縄県が6600人であるのに対し、福岡市では10人に24時間の介護給付が認められているのです。
稲永照美さん「(宝塚がいっぱいですね?)いや〜夢の世界です。こんな男いませんから」
脳性小児麻痺と知的障害を重複する稲永照美さん。個人の自由が利かないグループホームでの生活に疲れ、今から3年前に自立生活を始めました。
昼間は作業所に通い、動かすことのできる手先を使った仕事をこなし、夕方自宅に戻ると、大好きな宝塚のビデオを見るのが日課です。日常生活を支える為の24時間の介護。しかし、介護者の付き添いの必要性はそれだけではないと強調します。
稲永照美さん「ちょうど表側が火事になって、どうしようかと。ただヘルパーがいたから・・・」
介助者がいたお陰で、逃げ出すことができたのです。
稲永照美さん「いくら自分が選んだ自立っていったって、やっぱり長生きしたいもん。障害者になりたくてなったわけでもないし」
こう話す稲永さんが、自立する上で目標とした人物がいます。自分より重度の障害を抱えながら、自立生活をおくる宮内朝子さんです。
宮内朝子さん「 私は生涯施設で暮らすんだろうなって思ってたんですけれども・・・」
ピアカウンセリングと呼ばれる自立の為のプログラムを受けていく内に、少しづつ自信をつけた上で自立生活に踏み出しました。
障害者にとっての自立生活とは・・・。10年間、自立生活を歩んでき宮内さんだからこそ言える言葉があります。
宮内朝子さん「誰かに頼んでやってもらっての自立っていうのもあるんだよって。外に出てみようというのが、一番大きな自立の一歩なんじゃないのって」
同じ法律の下で、一方では生きる権利として24時間の介護給付が認められ、その一方では叶わない。なぜ地域間でこうした歴然とした格差があるのでしょうか。
福岡市障がい保健福祉課・矢野俊治係長「(福岡市の24時間介護給付者は?)現在10人おられます。必要な方には必要な部分を。中にはやはり重度の方で、特に単身の方で24時間介護の必要な方もおられますので」
福岡市では自立支援法の施行に合わせて、利用者の負担を増やさない対策を設けたり、不服のある人については再調査を行なうなどした結果、現在までに不服申し立て等の請求は1件も出ていない状況です。
ご自身も障害当事者でありながら、障害者の自立を促し、支えてきた自立支援センターえんの山田さんは今の福岡市の状況を、自立支援法の施行前から積み上げてきた流れだと話します。
自立支援センターえん・山田昌和代表理事「一言で言えばね、行政の寛大な気持ちかなと。一方では障害当事者がそれを要求してきた。長い年月かけて要求してきた。24時間本当に必要なんだから、必要なようにもらえるべきと私は理解しています」
沖縄大学の谷口教授は行政側の認識や財政事情によって、大きく左右されるこうした自立支援法での格差は、地方分権の流れに逆行して、国が拙速に進めた結果だと指摘します。
沖縄大学福祉文化学科・谷口正厚教授「国が基準を決めて、短期間に市町村の中で住民と共にいろんな議論をしていく。そういう機会を時間的に与えないという方で進んでいる。議論が出来るように、そこの決定を国が支持していくという行政的な、それから財政的な仕組みを作っていく。これが大きな課題」
この春から、国は期限付きで障害者の負担軽減措置をとっていましたが、自民公明はこれを恒久化する方針を打ち出しました。これに対し、民主党からは利用者がサービスを受けた分を負担するという法律の考え方そのものの大幅な見直しを求めた改正案を提出しています。もともと多くの問題を含みながらスタートしたこの法律。見直しの議論が高まる今こそ、しっかりとその動向に注目し、声をあげていく必要があります。