子どもたちの元気な声が響く中城村の保育園。今年6月、園児と中学生の出会いが始まりました。園児のお相手は3年生の22人。1・2歳の園児たちも、大勢の生徒の訪問に落ち着かない様子です。
園児一人に一人の生徒がつきます。パートナーの園児に手を差し出しますが、泣いてしまう子、人見知りして寄り付かない子とさまざま。
こうして1対1で園児と向き合い、接するのも実は授業の一つ。学校の選択の時間をコミュニケーション授業として、園児たちとの交流に充てています。
保育園にほど近い琉球大学附属中学校。授業で園児との交流授業を実践しているのは与那覇直樹先生。3年生のクラス担任です。普段は国語を教えている先生。この授業になると生徒にゲームを教えます。
ゲームで盛り上がり、教室には笑い声や歓声があがります。先生が人との関わりあい、コミュニケーションをテーマにした授業を考えたのは、北谷町の中学校で教鞭を取っていた時でした。
2003年、同じ町内で中学生による集団暴行死事件がきっかけでした。
与那覇先生「意思の疎通をする前に、カッとなって手が出てしまう。相手の意見や考えを素直に聞き入れない。自分の気持ちの伝え方が下手というか、苦手」
その後、県外での実践をもとに、今の学校で始めることにしました。この学校は島尻から中頭と、広い校区から生徒が通っています。学校が終わっても一緒に家路に帰ることがない生徒の思いを先生は聞きました。
与那覇先生「中学生活の中でどんなことをやってみたいかという質問に対して、一緒におしゃべりをしながら歩いて帰りたいと。本音で語れない」
園児たちとの最初の交流。ほとんどが相手をするのが初めてです。園児の気をひこうと生徒達も声をかけたり、遊びに誘ってみたりしますが…。園児は自分のペースで動き回ります。最初の交流は何をしていいのかわからず、もどかしいまま時間が過ぎていきました。
生徒「子どもが何をやりたいのかわからないので難しいです」「(反応は?)ないです。何を言っているのかわからないから、次に何をしたいのかわからない」
授業では交流だけでなく、学校でグループワークも行われます。生徒がグループになってメンバーと一緒に考え、意見を出し合い、聞く中で「共感」や他者を理解することに気づくのが狙いです。授業を通して気づいたことを園児との交流に活かしていく。その積み重ねがコミュニケーションを深め、知ることにつながると先生は思っています。
夏休みが明けた9月の交流。最初の頃と違って、園児たちも生徒に心を開くようになりました。
園児は言葉で気持ちや考えを伝えてはくれません。最初は戸惑いましたが、生徒達は園児が今、何をしたいのか?どうしたら園児が喜ぶのか?身振りや手振りで、そして声をかけながら、園児の目を見て自分の思いを伝えます。
女生徒がほとんどのメンバーの中で、男生徒も手際よくオムツの取替えのお手伝いです。
生徒達は園児が昼寝に就くまでずっと寄り添います。交流を重ねる度に園児との距離は少しづつ縮まっています。
生徒「泣かなくなった。おいでと言ったら来てくれるようになった」「自分に話しかけてくれる。変わってます」「一生懸命、名前を呼んで話かけたら顔を覚えてくれたし、コミュニケーションって大切だなと思いました」
交流を始めて4ヶ月。生徒達はこれまでの交流を振り返りました。園児と関わって自分の変わったこと、発見したことを発表します。
園児たちと向き合う中で、自分と向き合い、自分の変化に気づき始めた生徒達。園児たちの笑顔が生徒に人と関わることの手ごたえと自信を与えているようです。
与那覇先生「自分は役にたっているんだという気持ちをもっともっと意識して、相手に寄り添うように接してあげると、友達関係はよくなる」
園児との交流を通した授業は卒業する3月まで続きます。
園児たちも生徒達も表情に笑顔が見られるようになりました。出会って心を通わせる中でお互いに成長しているようです。このような交流授業は大学でも行われていて、お年寄りとの交流など、自分と違う世代と関わる中で学んでいくことが、その人の成長や人間性を育てることにつながっていくんですね。