高速道路やダムなど、大型の開発事業があるときに、つくる側の勝手で自然や地域生活が壊されることのないよう「環境影響調査・環境アセスメント」という手続きが法で義務付けられています。しかし日本では8年前にようやく成立した新しい法律で、内容もまだ世界水準には及ばないといわれています。
ところが、これまで県民に有無を言わせず作ってきた基地建設もアセスに従うことになったため、市民にとってはアメリカ軍に情報を公開させ、民主的に進める「最大の武器」として機能し始めています。
アメリカ軍の基地建設計画にゆれる名護市辺野古沖。ここでは1998年から「リーフチェック」という国際的な調査基準で、サンゴ礁の定点観測しています。
世界中のサンゴ礁が劣化の一途をたどる中、この調査をリードする安部真理子さんは沖縄近海のサンゴの重要性をもっと訴えなければと感じています。安部さんたち、サンゴの研究者らで作る団体は意見書を手に防衛施設局を訪れました
リーフチェック研究会・安部真理子さん「ぜひ、ミドリイシ以外のサンゴにつきましても同じような調査を要望いたします」
東恩納琢磨さん「わたしたちはこれまでこういう調査をしてきた中で、環境アセスメントをやること、ちゃんとやることで地域の財産にもなると思う」
実は去年の暮れ、防衛省の守屋事務次官が「ミドリイシ類のサンゴの産卵にあわせ、前倒しで環境調査に入りたい」と発言。なぜミドリイシサンゴなのかと、研究者らは疑問を投げかけます。
一斉に産卵するミドリイシサンゴ類は観察しやすく、ダイバーらにも人気ですが、辺野古周辺ではむしろそれ以外のサンゴが多く、その多様性こそ調査するべきだと主張します。
安部さん「この海域のサンゴ群集が沖縄周辺における重大なサンゴ礁、及びサンゴ群衆のひとつであるという結果が出た場合には、環境アセスの方法書の中に、この海域における基地建設を取りやめるというゼロオプションをぜひ加えていただけますよう、強く要望いたします」
安部さんは「方法書」に、ほかのサンゴの調査だけでなく「ゼロオプション=計画撤回」の選択肢も盛り込んでほしいと訴えます。
なぜ今「意見」を出すのか。それは、アセスは最初の手続きである「方法書」ですべてが決まるといえるほど大事な段階だからです。
この「方法書」は1999年以前の「閣議アセス」の時代にはありませんでした。先に環境調査をしてから「準備書」にまとめて初めて公開されたので、必要な項目が調査から漏れていたり調査方法がずさんでも修正できなかったのです。
しかし、アセス法が成立し、「方法書」が導入され、市民は前もって事業の内容を知り、調査内容についても意見が言えるようになりました。つまり、「方法書」をまともなものにすれば、アセス全体がより良いものになるというわけです。
東京工業大学・原科幸彦教授「方法書の段階がすごく大事。方法書段階でどんな活動内容なのか、アクションがきちんと公開され、提示され、それに応じてどんな調査をしたいのか。そのときにみんなが心配していることについて調べてもらえばいい」
アセス法の設立にも関わった東京工業大学の原科教授は、すでにアセス手続きの最終段階にある東村高江のヘリパッドの建設について、「方法書からやり直すべきだ」と指摘しました。方法書にはなかった「アメリカ軍の歩行訓練ルート」が、準備書から書き加えられているためです。
原科教授「歩行ルートというと表現は非常に軽く見えるけれども、中身を考えたら自然に大きなインパクトを与える行為。当然、どんな活動を行うのかを示して調査を行うべき」
このヘリパッドについては、なぜ集落の近くなのか、どんな機種がどう訓練するのかもわからないまま、ヘリの騒音が測定されていました。方法書の段階からもっと市民が参加していたら、結果は違ったかもしれません。
このように環境アセスの基本原則である「情報公開・住民参加」をおざなりにした調査は、今後やり直しを求められる可能性も出ています。
環境アセスの知識を学んで地域を守るために活用しようという市民の動きは、活発になってきています。
先月も名護市の住民らが市の教育委員会を訪れ、基地内にある埋蔵文化財について、アセスの「方法書に対する意見」にしっかりと盛り込んでほしいと要望しました。
「ティダの会」・大城敬人さん「2000年前の土器が出ている遺跡もある。これはしっかり意見書に盛り込んでもらわないと」
キャンプシュワブ内の試掘調査では、すでに水田の跡と見られる遺構が見つかっていて、さらに4月からは文化庁の予算で初めての全体的な分布調査に入ります。だから当然、文化財への影響も配慮したアセスにしてくれと、方法書の提示より前に市や市民から声を上げていこうというのです。
国の提示したV字型滑走路案については、依然として地元と折り合いがついていませんが、政府はまもなく「方法書」を一方的に県に送りつけ、調査に着手する構えです。
しかし、アセスの事前調査と称して前回「方法書」もないうちに強行したボ-リング調査で、国は住民らの反発を受け、28億円の調査費を無駄遣いしたという苦い記憶があります。
原科教授「ちゃんと住民との合意形成をするという環境アセスメントのベースから考えますと、方法を決めてから調査に入るのが望ましい。それを強引にやるような進め方というのは、行政として好ましくないと思います」
方法書をきちんと作って、市民の合意を得て調査に入るのがようやくできたアセス法の肝だとすれば、事前調査というのは趣旨に合わないわけです。
前回の海上基地建設計画で、28億円の無駄を生んだボーリング調査という痛い前例があるわけですから、事業者である国はその反省に立って、方法書の段階から必要な情報をアメリカ軍から引き出す努力ももっとして、住民との合意形成を重視して進める姿勢が不可欠です。