20年以上にもわたって、日本人の三大死因の一位をしめる「がん」。がんによる死亡者数は30万人を超え、いまも増える傾向にあります。
そのガンのあらたな治療法として関心が高まっている「免疫細胞療法」をご存知でしょうか。この免疫療法の可能性と、現在の課題についてまとめました。
現在、”国民病”とまで言われる「がん」。がんは日本人の三大死因のトップ。2001年以降、死亡者数は30万人を超え、今なお増え続けています。がんの治療法は発展してきましたが、がんを克服するまでには至っていないのが現状です。
現在行われているがんの治療法は、主に三つあげられます。「外科的療法」、即ち”手術”。そして、のこったガン・再発に対する治療が、放射線を患部に照射する「放射線療法」と抗がん剤を使用する「化学療法」です。
武藤徹一郎・癌研有明病院院長「放射線治療や化学療法が使われるのは多くの場合、再発、あるいは、がんが残っているものに対しての治療なのです。だから、どんなに高度なものが出てきても、それで治ることはほとんどない。ゼロとは言わないが、ほとんどない」
がんの転移・再発を抑える補助療法、あるいは”第四番目の療法”として期待されているあらたな療法。それが「免疫療法」です。
がん治療に携わる多くの医師や専門家が国内外から集まる「日本癌治療学会」でも注目を集めた療法。人間が本来もっている”免疫システム”を活用するのが「免疫療法」なのです。
人間には本来、体の変調を元に戻そうという力が備わっています。その代表的なものを「免疫」と言います。免疫の主役を担っているのは「免疫細胞」、血液中に含まれる白血球です。「免疫細胞」は、”体の外”から侵入してくる細菌やウイルスなどの異物を除去しようと攻撃します。 更に、”体の中”に生じたがん細胞などの異物にも同様に攻撃をしかけるのです。
30年に渡り、がんの免疫研究に携わっている東京大学名誉教授の江川滉二さん。副作用の強い抗がん剤を使用するしかない、進行がん患者に対する療法の一つとして、免疫療法を他の療法とあわせて用いることが効果的だと話します。
江川滉二・東京大学名誉教授「免疫療法全体について、それだけで癌を治してしまうという力はなかなか無い。しかし免疫療法は、今までやられている手術・放射線・抗がん剤とは別の方面からがん細胞を攻撃する。これは組み合わせれば、一つの病気をなるべく色々な方向から攻めるのですから、それは良いに違いない訳です」
がんの免疫療法には何種類かありますが、代表的な一つが「免疫細胞療法」です。免疫細胞の一つ、リンパ球をその人の血液からとりだし、培養して活性化。増殖させてリンパ球はおよそ50億。通常の血液の数倍にもなります。本人の血液による完全なオーダーメイド、といえるこのリンパ球を免疫細胞療法専門病院で点滴などにより患者に投与します。活性化し、培養されたリンパ球が本人に戻されるわけです。
多数の実績をもつ免疫細胞療法専門病院グループによれば、この療法による副作用はごく軽い発熱程度で、7年にわたる5000人の治療で、がんの進行の阻止・縮小などの結果を得ています。
相田淳子さんは5年前に卵巣がんを発病し、卵巣を摘出しました。再発予防のため、化学療法にくわえ免疫細胞療法の併用を選択。相田さんは二つの療法の相乗効果を実感したといいます。
相田淳子さん「結果が出てくる。再発しない。体は元気になってくる。抗がん剤の治療を受けている時にも副作用が無かったのです。脱毛はあったのですが、吐き気が酷くてご飯が食べられないことは全く無くて、治療の翌日も朝から平気で御飯を食べていて、皆に、看護士さんにもビックリされました。副作用で白血球の数が減ってきてしまうのですが、それも無く、外出も外泊も出来ました。抗がん剤が主力か免疫細胞療法が主力かと言ったら、同じだと思います。双方が補っているので”私は二つの武器を持っているんだ”という感じになりました。1+1が2ではなく、多分3になった様な心理的作用があり、それは大きかったです」
とはいえ、まだ研究課題の多い「免疫療法」。様々な医療・医科学研究機関でリサーチが続いています。
河上 裕・慶応義塾大学先端医科学研究所所長「がんは免疫を抑える”免疫回避機構”を持っています。その免疫を逃れるようながんの問題点をどのように克服していくかが非常に問題になっています。実際、分子レベル・細胞レベルで一つ一つ克服する方法を開発しようとしています。それが出来れば、今行われている免疫療法も、もう一歩効果を引き出せる可能性を秘めていると考えています」
がん患者が増え続ける現在、新たな療法としての確立が待たれる「免疫療法」。課題の解決に向け、研究が続けられています。
「免疫療法」の認知度はまだ低く、安全基準制定もこれからの課題です。そして、ご紹介した「免疫細胞療法」は現在、保険適用外で、数回の治療で平均百数十万円以上かかります。
設備の安全性や治療実績、専門医師の信頼性などをよく確かめ、主治医とも相談することが不可欠です。