人への思いやりの心や、愛情を注ぐことの大切さはわかっていてもそれを素直に表現するのは難しいものです。
知的障害をもつ人々との交流を通して、人に手を差し伸べる気持ちや私たちが本来もっている心の豊かさを回復しようという取り組みが行われています。
うるま市の授産施設「れいめいの里」では2年前から施設利用者、つまり知的障害をもつ人たちと一般の人たちが交流するという研修を開始しています。この研修はボランティアで施設利用者の手伝いをするというものではなく、あくまで利用者との交流をとおして、そのこころを感じることが目的です。特別なプログラムはなく、彼らのスケジュールにあわせて行動をともにするだけです。
施設の食事時間。このとき初めて研修生は利用者と出会います。緊張する研修生に、まるで昔からの友達のように話しかける利用者に、研修生は驚きを隠せません。
れいめいの里・川崎施設長が利用者との交流を通して現代社会で疲れた人々の心を取り戻す取り組みを始めたきっかけは、この施設の施設長として迎えられた時だったといいます。初めて会う川崎さんに対し、利用者たちはやはり笑顔でかけより、手を握ってきたのでした。
川崎施設長「障害のある人たちがどんな力を持っているかというと、私たちに『愛することの大切さ』、『親切にされることの大切さ』、『素直に愛情を表に出すことの大切さ』を教えることができる存在なんです」
施設の中では、利用者それぞれが助け合う光景がみられます。たとえば作業場に移動するとき、人の手をとって誘導したり、食事の配膳を手伝ったりということ。教えられたわけではなく、その姿はとても自然です。その自然さに教えられる、というのがこの研修なのです。
これまでこの研修に参加したのは、のべ200人。参加者のなかには会社の事務職や教員もいます。研修修了後に彼らが書いた感想文には、一様に「施設利用者の素直さ、こころの豊かさ」を感じたことが書かれています。
ことし2月にこの研修をうけた砂辺さん。利用者との行動をとおして砂辺さんも、相手への思いやりというだいじな心を取り戻したといいます。
砂辺さん「『相手を思いやる気持ち』は今までもあったけど、さらに自分の心の中で高まったというか」
砂辺さんの仕事は看護師です。外来や入院患者の世話をする忙しい日々を送っています。その忙しさのなかで、同僚や仲間に対する思いやりの気持ちを忘れがちだったことを砂辺さんは研修で感じました。
砂辺さん「普段自分が気づいた時に『あ、どうしよう』と思ったりすることを、利用者は『迷惑じゃないか』という気持ちより先に行動に出てる感じだった」「(自分が)簡単にできないことも利用者はできるのを見ていて、自分が恥ずかしくなった」
川崎施設長「『愛』という物差しではかると、私たち『健常者』と呼ばれる人たちと知的障害、弱者と呼ばれる人たちに比べ、どちらが『障害者』なのかという感じを受けたわけです」
この日の研修場所は、施設に程近い海岸での清掃作業。彼らを手伝う「ボランティア作業」ではなく、あくまで「いっしょになって」過ごすこと。そしてそのなかから「何か」を学ぶことが目的です。
参加者「(利用者は)感情をストレートに表現してくれるのでとてもわかりやすくてよかったです」「自分は性格的に感情を素直に言うことができない。みててとっても気持ちがよかったし、素直に表現してくれるのがとても嬉しかったので、見習いたいなと思いました」「Q:こういう短い時間で(心は)変わるもの?A:変わりますね。変わりました」
目に見えない「思いやりの心」。教科書や言葉でなく、ふだん我々が「弱者」と表現する人たちの生き様がそれを教えてくれると施設長の川崎さんは話しています。また同時に、この研修を一般の人々が知的障害の人たちに持つ偏見、心の壁をこえるノーマライゼーションの場としたいということでした。